Voice.22
陽キャアイドルの幼なじみが嫉妬している件について
その日の夜から、オレは篠原のオーディションの練習として相手役をすることになった。
篠原の演技は、1週間前と比べて上手くなっている。
でも、篠原は納得がいっていないようだった。
「うーん……」
篠原は台本を眺めながら、考え込んでいる。
「オレは前より上手くなってると思うけど」
「私も前よりはいいと思うよ? でもアリアにはなりきれてないっていうか……私がまだ残ってるっていうか……」
そして、篠原は今度やる劇の原作の小説と漫画をのページをめくった。
「原作の小説も読んでコミカライズも読んで頭の中でキャラをきっちり作ってあるのにいざ動こうとするとうまくいかない、みたいな感じ」
「もしかして、想像と実際の出力が違う、ってやつか?」
「よくわかったね」
「絵描いてるとたまにあるし、前にメガネと文豪が煮詰まった時そうやって言ってたから」
「そっか」
そう言うと、篠原はため息をついてベッドにうつぶせで寝転んで、クッションをかかえてうなだれる。
「笹山さんの演技はちゃんと演じる役になってて自然体なのに、どうして私にはそれができないんだろう」
篠原は演技をすると普段の篠原の雰囲気が残った柔らかい演技で、笹山は演技をすると普段とはまったく雰囲気が変わる。
演技経験の差じゃなくて、それぞれの本質の差だと思う。
「それにたっくんと笹山さん、2人で公園で練習してたみたいだし」
オレは思わず声をあげた。
「なんで篠原がそれ知ってるんだ!?」
「演劇部で一緒で前に連絡先交換してるからこのあいだ笹山さんが教えてくれた」
篠原はそう言って笹山とのトーク画面を見せる。
日付はオレと笹山が公園で会った日で、時間はオレが帰った後になっている。
そして、篠原は起き上がって聞いた。
「たっくんは笹山さんみたいな子がタイプなの?」
「違う! 違うから! 全然違う!」
「……本当に?」
「本当に」
「……ならいいけどさ、2人で会ってたって聞いたからちょっとだけ気になって」
「たまたま会ってオーディションの練習してただけだから!」
「もうわかったよ」
そして、篠原はクッションに顔をうずめた。
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