Voice.21
陽キャアイドルの幼なじみのライバルとお昼ごはんを食べた件について
――昼休み。
オレと篠原は屋上で笹山と話すことになった。
購買でパンを買って屋上に行くと、篠原と笹山が待っていた。
笹山が口を開く。
「ごめんね。急に呼び出して」
「いや、元はといえばオレ達がきっかけだし」
「そういえばそうだね。じゃあ、お昼食べながら話そうか」
そう言って、笹山はスクールバッグから弁当を出す。
笹山の弁当は高級そうな黒色の重箱に入っていた。
篠原がスクールバッグから弁当を出しながら言う。
「笹山さんのお弁当すごいね」
「たしかにみんなお重には入れてこないね。メイドさんが作ってくれてるからそれ持ってきてるんだ」
「いいなー豪勢なお弁当。私はお母さんの手作りだったり自分で作ったりいろいろだよ。今日はお母さんの手作り」
「私には篠原さんのお弁当がうらやましいけどな」
オレは購買で買ったパンの袋を開けて、食べる。
笹山が言った。
「あ、それで、今朝の話ね。何の話してたの?」
いつもと変わらない様子の笹山に、オレは少し後ろめたい気持ちになる。
「昨日竹野美桜って人が生放送に出てて、その人の娘の写真で笹山が映ってたんだけど」
「ああ瀬尾くん、昨日の生放送観てたんだ」
「うん」
オレがうなずくと、笹山は笑って言った。
「そうだよ。私は女優竹野美桜の娘」
そして、続ける。
「まあ隠してたことじゃないから、バレても別に問題ないんだけどね」
「そっか」
「それにしても、2人とも驚かないんだね。みんな私のお母さんが女優だって知ったらお母さんのサインもらってきてとか私の家行かせてとか言ってくるのに」
「いや、たしかに驚いたけど、驚きすぎてそこまでお願いするほど頭がまわらなくて」
オレが言うと、笹山は安心したような表情をした。
そして、呟く。
「……そういう人も居るんだね」
「え?」
「ううん、なんでもない。さて、芸能人の娘の私に聞きたいことはある?」
試すような口ぶりで笹山が言って、オレは考えてから言った。
「なんでこの学校に入ったんだ? 笹山ならうちの高校より演劇科ある高校とか、もっと合ってるところあるだろ?」
笹山は考えるような仕草をしてから、言う。
「普通がよかったから、かな」
「どういうこと?」
篠原が聞くと、笹山は言った。
「誰も私を特別扱いしないような場所で、普通の高校生になってみたかったの。まあ、結局クラスメイトからは遠巻きに見られるし、演劇部の顧問の先生には期待されてるから、変わってないんだけど」
「そっか」
篠原はうなずく。
「普通って難しいよね。私の普通とみんなの普通はちょっとズレてるみたい」
そして、笹山は続けた。
「だから、さっき私のお母さんのこと知って私への態度を変えない2人見てちょっと嬉しくなったんだ」
その時、昼休み終わりのチャイムが鳴る。
笹山が言った。
「あ、もうお昼休み終わり?」
「みたいだな」
オレが言うと、笹山は食べ終わった弁当をスクールバッグにしまって立ち上がる。
「私次教室から移動しなきゃいけないから、この続きはまた今度でいいかな?」
「ああ」
「うん。時間取ってもらってごめんね」
「じゃあ、先行くね」
そして、笹山は自分の教室に戻っていった。
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