Voice.20

陽キャアイドルの幼なじみのライバルの素顔を見た気がした件について

 笹山のオーディションの練習をした後、オレと笹山は自動販売機で飲みものを買った。

 オレはサイダーを買う。


「笹山は?」

「私はカフェオレにしようかな」


 笹山はそう言って、アイスカフェオレを選んで買った。

 そして、2人でベンチに座ってそれぞれ飲みもののキャップを開ける。

 飲んでから、ひと息ついた。


「それにしても瀬尾くん、初めて見た台本なのにセリフつっかえないで言えてたね」

「篠原に頼まれて1回練習したからな」

「そうなの?」

「そう。さっき笹山と読んだシーンやった」


 オレはそう言って、サイダーを飲んだ。


「なんか2人って仲いいよね。つき合ってるの?」


 笹山のいきなりの発言に、飲んでいたサイダーの炭酸が喉に引っかかる。

 そして、思わず咳き込んだ。


「そういう反応するってことは図星?」


 笹山は純粋な表情をして聞いてくる。

 オレはため息をついて、言った。


「いや、ただのオレの片想いで――」

「へー。片想いなんだ?」


 笹山に言われて、オレは自分の口がすべったことに気がつく。


「笹山」

「何?」

「今、オレにカマかけただろ」

「えー、そんなことしてないよー」


 そう言った笹山の表情は、言葉とは裏腹に楽しげだった。


「絶対誰にも言うなよ?」

「言わないよ。私人の秘密は守るから」

「それならいいけど」

「そういえば、夜に1人でこんなところに居て、親は心配しないのか?」


 すると、笹山はうつむく。

 そして、言った。


「お父さんは仕事で海外に単身赴任してるし、お母さんは……今日も夜遅くまで仕事だろうし」


 そう言った笹山の表情は、いつもとは違って、ほんの少しだけ寂しそうにみえる。

 そんな笹山を見て、オレは口を開いた。


「……ごめん。無神経なこと聞いた」

「気にしないで。私にとっては普通のことだから」


 オレとは違って、笹山はやけに平然としている。


「あ、瀬尾くんはそろそろ帰ったほうがいいんじゃない? 買いものの途中だったんでしょ?」

「そういえばそうだな。笹山はどうするんだ?」

「私は迎えに来てくれる人が居るから大丈夫だよ」

「そっか。じゃあオレは帰るよ」

「うん。また学校でね」


 そして、家に帰ると、家族のみんながテレビを観ていた。


「ただいま」

「おかえり。拓夜」


 出迎えた母さんに買い物袋を手渡しながら、テレビを眺める。

 画面には、母さんと同年代くらいの女性の芸能人がテレビの生放送に出ていた。


「この人誰?」


 オレが聞くと、母さんが言った。


「知らないの? 竹野美桜たけのみお。お母さんと同い年で、中学生の時からテレビ出てる人気女優」

「知らない」


 竹野美桜は、母さんと同い年にしてはとても綺麗だ。

 テレビの司会者が竹野美桜に聞く。


「今日は、お子さんの写真も持ってきてもらったそうですね」

「はい。今まであんまり子どものことは言わないようにしてたんですけど、時間が経ったのでやっぱりそういう話もしたいなと思って」

「では、お子さんの写真を見てみましょう」


 司会者がそう言うと、テレビの画面に写真が映し出された。


「え?」


 それを見て、オレは思わず声を漏らす。

 仲よさそうな父、母、娘の3人で並んだ家族写真の真ん中に映っていたのは、小さい頃の笹山だった。

  • Xで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

新規登録で充実の読書を

マイページ
読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
フォローしたユーザーの活動を追える
通知
小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
閲覧履歴
以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
新規ユーザー登録無料

アカウントをお持ちの方はログイン

カクヨムで可能な読書体験をくわしく知る