陽キャアイドルの幼なじみのライバルは演技派だった件について

 公園のベンチに座ったオレは、黙ったまま笹山と話す言葉を考えていた。

 学校以外で笹山と話したことないから、どうやって話を切り出せばいいかわからない。

 すると、笹山が言った。


「ねえ」

「な、何?」

「ちょっとオーディションの練習の相手役してくれる?」

「えっと……」

「演技上手くなくてもいいからさ」


 言おうとしていた言葉をさえぎられて、オレは打つ手がなくなる。

 そして、オレは立ち上がって、笹山のオーディションの練習につき合うことにした。

 そして、2人で向かい合って台本を読み始める。

 笹山が口を開いた。


「……ごめんなさい」

「なんでアリアが謝るんだ?」

「ヴァレンくんが悲しい顔してるの、きっと私のせいだから」

「……アリアのせいじゃない」

「なら、どうして私にそっけないの?」


 笹山が篠原と同じように距離を詰めて、でも篠原とは違う目でオレを見つめた。


 それに、オレは思わず驚いて目をみはる。

 アリアには記憶がない。

 そのことを意識した声色と仕草の演技だ。

 篠原とは違う。

 オレは思わず息をのんだ。

 そのせいで、セリフを言うのが遅れる。


「それは――」

「私には言えないことで悩んでるんだよね」


 笹山が遠慮がちに言う。


「……アリアにオレの記憶がないことが辛い」

「やっばり」


 笹山はわかっていたかのように笑う。


「アリアには言わないようにしてたのに」

「そうやって隠されるほうも辛いんだよ」

「……ごめん。アリアの気持ち考えてなかった」

「私は、ヴァレンくんには悲しい顔してほしくない」


 そして、笹山はオレの手を取る。


「私には、嘘つかないで」


 そう言った笹山の表情は、寂しげで、笑っているけれどどはかなく見えた。

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