陽キャアイドルの幼なじみのライバルに興味をもたれた件について

 木暮のおかげで、キャラクターデザインが本格的に決まり、ゲーム制作は順調に進んでいた。

 文豪が言った。


「初稿ができた」

「おおー!」


 そして、人数分のコピーをして渡してくれた原稿をめくる。


「オレのアイディアが脚本になってる……!」


 数行しかない設定から数枚の原稿に話がふくらんでいて、不思議な感覚だ。


「まあまだ初稿だしこれから直すところいっぱいあるけどな」


 メガネが言った。


「あのさ、読んでて気になったところがあるんだけど」

「何?」

「2人目のヒロインって声優どうするの?」

「……あ」


 そう。

 作っているゲームは恋愛アドベンチャーゲームで、ヒロインは2人居る。

 1人は篠原に声を当ててもらうことになっているけれど、2人目は決まっていなかった。

 ということで、オレ達は2人目の声優を探すことにした。

 部活が終わって廊下を歩く。

 すると、誰かに後ろから声をかけられた。


「君、ちょっと待って」


 いきなり話しかけられて、オレは驚きながらも振り向く。

 そこには、笹山が立っていた。


「な、何? 笹山」

「落としもの届けにきたんだ」

「落としもの?」


 笹山はそう言って、オレに柚木真奈さんのライブで買ったキーリングを手渡した。


「あ、これオレのだ。バッグにつけてたやつ」

「本屋さんで会った時落としていったから」

「そっか。ありがとう」

「それ、何のキーリングなの?」

「これは柚木真奈さんっていう声優さんのライブのグッズなんだ」


 オレが言うと、笹山は首をかしげた。


「声優って何?」

「え?」


 笹山は純粋無垢な表情でオレに聞いてくる。

 もしかして、アニメとかゲームとか知らないタイプなのか?


「声優っていうのは、アニメとかゲームとかでキャラクターに声をあてる職業をしている人のことで……」

「へー。アニメも観たことないしゲームもやったことないからわからないんだけど、キャラクターに声あててる人が居るんだ」

「うん」

「私、キャラクターは本当に居ると思ってたよ。よくコスプレ?っていうの見かけるし」

「コスプレはキャラクターの衣装を着ることで、キャラクターは2次元なんだ」

「そっかー。現実には居ないんだね」

「ちなみに笹山、その感じだと漫画も知らないのか?」

「そうだね。言葉としては知ってるけど読んだことはないな」


 笹山の反応が素直すぎて戸惑う。

 すると、笹山は思い出したように言った。


「あ、私そろそろ帰らなきゃ」

「そっか。キーリング拾ってくれてありがとう」

「どういたしまして」


 そして、笹山は帰っていった。

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