陽キャアイドルの幼なじみを思わず抱き締めてしまった件について

「停電!?」

「……みたいだな」


 部屋の中は真っ暗だ。


「篠原、とりあえずオレの隣に居て」

「う、うん」

「大丈夫か?」

「だ、大丈夫。たっくんが居るから怖くな――」


 すると、また窓の外が光って雷が鳴った。

 その瞬間。

 篠原がオレの服を掴んだ。


「し、篠原? どうした?」

「……ごめんね、たっくん。私、本当は雷苦手なんだ」


 篠原の身体が小さく震えている。

 そして、篠原はうつむいたまま続けた。


「だから、もう少し……もう少しだけ、このままがいいな」


 その言葉に、オレはうなずく。


「……わかった」


 それから、オレも篠原も何も言わなかった。

 雨の音に混じって、ときどき雷の音が鳴り響く。

 こういう時、どうすればいいんだろう。

 篠原を安心させられたらいいのに。

 そう思ったら、思わず篠原をそっと抱き締めていた。


「た、たっくん!?」


 動揺する篠原の声が聞こえる。

 オレは、言った。


「大丈夫。オレがこうして篠原と一緒に居るから」


 そして、篠原を安心させるように右手で頭をなでる。

 すると、篠原はオレの背中に腕をまわした。

 その仕草に、オレの胸の鼓動が速くなる。

 篠原は、安心したように言った。


「ありがとう」


 それからしばらくして、雷の音が遠くなる。

 篠原は言った。


「もう大丈夫だよ」

「そっか」


 そう言われて、オレは身体を離す。

 篠原は天井を見て言った。


「それにしても、ずっと真っ暗なままだね」

「そうだな」


 懐中電灯は探さないとなかった気がするから、何か別のもので――。


「あ、いいこと思いついた」

「何?」


 篠原は首をかしげる。


「篠原、ちょっとそのまま目閉じて待ってて」

「う、うん」


 そして、篠原が目を閉じているあいだに、オレは自分の部屋に行く。

 それから、リビングに戻ってカーテンを閉めて、床にを並べて準備をした。


「篠原、目開けていいよ」


 オレがそう言うと、篠原は目を開ける。


「何して――」


 そして、目をみはった。


「これって……もしかしてペンライトの光?」


 オレが自分の部屋に取りに行って床に並べていたのは、ライブ用のペンライトだった。

 ペンライトスタンドを使って並べて、全部柚木真奈さんのイメージカラーの青色にしてある。


「懐中電灯より、こっちのほうがいいだろ?」

「うん! 真奈ちゃんのライブの時みたい」


 篠原はそう言って笑顔を見せる。

 それから、オレ達はソファーに座った。

 暗闇の中で見るペンライトの青色の光は、とても幻想的だ。

 それを眺めながら、オレは口を開いた。


「さっき懐中電灯の代わりになるもの考えてたら思いついたんだ」

「たっくんっていっぱいペンライト持ってるんだね」

「真奈さんがライブやるたびにペンライト新しく出るからそれ買ってたら数えきれないくらいになった」

「私と同じだね」


 どちらからともなく手が触れ合う。

 そして、オレ達は雨が上がって電気がつくまで、ペンライトの青い海を眺めていた。

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