Voice.15 もう少しだけ、このままがいいな

陽キャアイドルの幼なじみを家に上げることになった件について

「雨が止むまで、オレの家に来ない?」


 オレが篠原の手首を掴んでそう言うと、篠原は目をみはった。


「え?」

「そ、その、今篠原のお兄さんからこの雨で篠原の家族が帰るの遅くなるって聞いたから。雨ひどくなってきて1人だけで家で待つのは何かあったら危ないし」


 オレは篠原を引き止めるためのそれらしい理由を頭の中で探して言う。

 実はさっき、篠原のお兄さんに頼まれた。

 なんとか理由をつけて、雨が上がるまで朝陽を拓夜くんの家に引き止めてほしい、と。

 だから、今オレが篠原に言っているのは篠原を引き止めるための口実だ。

 すると、篠原は言った。


「じゃあ、そうしようかな」


 その言葉を聞いて、オレは安心して手を離す。

 そして、オレは家の鍵を開けて篠原を先に家に入れた。


「おじゃまします」

「どうぞ」


 そして、2人でリビングに入る。

 すると、篠原が言った。


「たっくんそのままだと風邪ひいちゃわない?」

「そういえばそうだな」

「お風呂入ってきなよ。私ここで待ってるから」


 篠原にそう言われて、オレは風呂に入ることにした。

 そして、リビングに戻ると、篠原が待っていた。


「篠原も風呂入ってくるか?」

「家に上がらせてもらってるのに悪いよ」


 篠原がそう言ったので、オレはスクールバッグからスマートフォンを取り出して、姉ちゃんにメッセージを送る。

 返信はすぐに来た。


「姉ちゃんがシャンプーと洋服貸すって。だから大丈夫だよ」

「本当に?」

「本当だって。ほら」


 そう言って、篠原にメッセージを見せる。

 すると、篠原は納得したように言った。


「そこまで言うなら、入ってくるね」


 そして、篠原は洗面所に行く。

 リビングのドアが閉まって、オレは姉ちゃんからのメッセージを見返した。


「私の使ってるシャンプーと服朝陽ちゃんに貸すから大丈夫だよ」


 これが篠原に見せたメッセージだ。

 その下には、もう1つメッセージがあった。


「誰も家に居ないけど、頑張ってね」


 続けて、猫のキャラの「ファイト!」の文字が書かれたスタンプがある。

 どういう意味だよ。

 いや、頭ではわかるけど意識的にはわかりたくない。

 そして、篠原が風呂に入っているあいだ、姉ちゃんとメッセージをやりとりしながら、姉ちゃんが選んだ服を洗面所に用意する。

 しばらくして、姉ちゃんの服を着た篠原がリビングに入ってきた。


「服貸してくれてありがとう。サイズぴったりだったよ」


 姉ちゃんが篠原に貸した服は、パステルピンクのワンピースとショートパンツのルームウェアだった。

 姉ちゃんが普段着ている服はオレンジ色が多いけれど、このあいだのモデルの仕事がパジャマパーティー風の撮影で、その時に着たルームウェアをもらってきたらしい。

 姉ちゃんありがとう。

 篠原がいつも以上にかわいい。


「な、ならよかった」


 オレが平然を装いながらそう言った、その時。

 窓に光が射し込んで、大きな雷の音が鳴り響く。

 次の瞬間。

 リビングの電気が消えて、部屋の中が真っ暗になった。

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