陽キャアイドルの幼なじみと雨やどりをした件について
部活の時間が終わってオレが外に出ると、空が曇っていた。
「なんか雨降りそうだな」
今日は折りたたみ傘を持ってきてないから、なるべく早めに家に帰ろう。
けれど、帰り道を歩いていると、雨がだんだん激しくなってきた。
スクールバッグを傘代わりにして、家を目指して走る。
なんとか家に着いた頃には、髪も制服もびしょ濡れになっていた。
「これどうすれば――」
家に入ればタオルはあるけど、父さんと母さんは仕事、姉ちゃんは大学で家には誰も居ないから、家に入ってタオルを取りに行くまでに床が濡れる。
すると、誰かがタオルでオレの髪を拭いた。
「すごい雨だよね」
声のしたほうに顔を向ける。
すると、篠原が隣に居た。
篠原はあまり濡れていない。
「篠原」
「たっくんよかったらこれ使って」
そう言って、髪を拭いてくれたタオルをオレに手渡す。
「ありがとう。篠原は大丈夫そうだな」
「いつも家出る時折りたたみ傘バッグに入れてるから、それさして帰ってきたの。タオルもいつも入れてあるんだ」
篠原は準備がいいな。
でもそのおかげで助かった。
オレは渡されたタオルで髪と制服を拭く。
その時。
雨の音に混じって、低い雷の音が聞こえた。
その音に、篠原は肩をびくつかせる。
すると、スマートフォンが鳴る音が聞こえた。
篠原はスクールバッグからスマートフォンを取り出して、電話に出る。
「あ、お兄ちゃん? 私は今家着いたところ」
電話の相手は篠原のお兄さんみたいだ。
「あ、あー……そっか。うん。この雨じゃしかたないよね」
何かあったのか、篠原の話す声が落ち込んでいるような気がする。
でも、篠原は明るく言った。
「大丈夫だよ。もう子どもじゃないし。お兄ちゃんは心配しすぎ」
そう言った篠原の手は、少し震えている。
「え? たっくん? 今隣に居るけど」
すると、篠原から自分のスマートフォンを渡された。
「お兄ちゃんがたっくんに電話代わってほしいって」
「オ、オレ?」
ただでさえ電話が苦手なのに、相手が篠原のお兄さんとか緊張する。
そして、オレは篠原のスマートフォンを受け取って、電話を代わった。
「も、もしもし」
「もしもし。拓夜くん?」
「は、はい」
「これからする話は、朝陽には言わないでほしいんだけど」
「わかりました」
ちょうど雨の音がさえぎって、お兄さんが電話している声は篠原には聞こえていないみたいだ。
「今の朝陽の様子、どうだ?」
そう聞かれて、オレは篠原を見た。
いつもと変わらない、けど――。
オレは篠原に聞こえないように、小声で言った。
「いつもと変わらないけど……なんとなく、無理してるような気がします」
「やっぱりな」
そして、篠原のお兄さんは続ける。
「最初は家族みんないつもと同じくらいに家帰れるはずだったんだけど、『雨と雷のせいで電車遅れてて家に帰るの遅くなる』って言ったらやけに明るい声で『大丈夫だよ』なんて言うからさ。本当は小さい頃から雷苦手なくせに」
「そういうことだったんですね」
「それで、拓夜くんにお願いがあるんだけど――」
しばらくして、オレはお兄さんと電話を終えて、篠原にスマートフォンを返した。
「じゃあ私、そろそろ家入るね」
篠原は笑って、自分の家に入ろうとする。
「待って!」
そこを、オレが手を掴んで引き止めた。
篠原が振り返る。
オレは、言った。
「雨が止むまで、オレの家に来ない?」
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