Stage.3 近づく距離とつのる想い

Voice.14 すごい雨だよね

陽キャアイドルの幼なじみを意識してしまう件について

 ゴールデンウィーク初日にみんなで出かけたおかげで、作りたいゲームのコンセプトが決まった。

 そして、ゴールデンウィーク前半が終わった平日。

 オレはいつもどおりに起きて、いつもどおりに制服に着替えて、いつもどおりに朝ごはんを食べて、いつもどおりに学校に行く。

 いままでと何も変わらない。

 ただ、1つを除いては。

 教室のドアを開けると、篠原が自分の席に座っていた。

 いつものようにクラスメイトに囲まれている。

 すると、篠原はオレの姿に気がついて声をかけてきた。


「あ、瀬尾くん。おはよう」


 篠原もいままでと何も変わらず、オレに明るく笑顔を向ける。

 何も変わらないけれど、ただ1つだけ、変わったことがある。

 ――それは、オレが篠原を好きになってしまったことだ。


「……お、おはよう。篠原」


 オレはうつむいて、小さな声でそう言う。

 それから、篠原の隣にある自分の席に座った。

 意識しないようにしても、授業を受けている時、先生に言われて前に出た時、声が聞こえた時、自然と目が篠原を追っている。

 みんなはいつもどおりに過ごしているけれど、オレはまだ全然いつもどおりになれそうになかった。

 そして、放課後の部活の時間。

 オレ達は天沢先生に新しく考えたゲームの企画書を提出した。

 天沢先生は黙ってそれを読む。

 それから、言った。


「いいですね!」

「本当ですか!?」


 オレ達は思わず聞き返す。

 天沢先生は口を開いた。


「ストーリーは前のゲームよりわかりやすいですし、キャラクターは前のゲームより出てくるキャラクターの人数を減らしたぶん、ひとりひとりが魅力的なキャラクターになってます」

「ってことは――」

「このまま進めてください」


 天沢先生の言葉に、オレ達は驚く。

 そして、声をあげた。


「やったー!」

「喜ぶのはまだ早いですよ。ここからが大変なんですから」


 天沢先生がオレ達を見て、しかたなさそうに言う。

 すると、誰かのスマートフォンが鳴った。

 篠原が机に置いたスクールバッグからスマートフォンを取り出して、操作する。


「篠原、どうかしたのか?」


 オレが聞くと、篠原は首を横に振った。


「ううん。家族のみんなからメッセージきてただけ」

「そっか」


 そして、オレ達は部活が終わる時間になるまでどんなゲームにするかの話し合いをする。

 窓の外では空が曇って、風が吹き始めていた。

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