陽キャアイドルの幼なじみと秘密の場所に行った件について

「何にしようかなー」


 そう言いながら、篠原はタブレットを操作する。

 みんなが居る前だと篠原は何を歌うんだろう。


「決めた!」


 そして、篠原は自分の歌う曲を送信した。

 テレビの画面に曲名が表示される。

 それは、女子高校生がロックバンドをやるアニメの劇中バンドの曲だった。

 篠原の選曲に、オレ達は声をあげる。

 篠原はオレ達の反応に微笑むと、マイクのスイッチをオンにして立ち上がって、テレビの横に行く。

 そして、イントロが流れ出して、歌い始めた。

 曲は明るくて軽快なミディアムテンポのロックだ。

 真奈さんの曲を歌う篠原も楽しそうだけど、こういうロックな曲も篠原に似合う。

 歌い終わって、メガネと文豪から歓声があがった。

 そして、メガネが聞く。


「篠原さんこのアニメ知ってたの!?」


 篠原はソファーに座ってから、言った。


「うん。中学の時軽音楽部に入っててキーボードだったんだけど、部活の友達にアニメすすめられて」

「へー、そうなんだ。オレ達3人もアニメ観てたけど、『バンドってかっこいい!』って思ったな。バンド推し」

「オレはドラム担当のキャラがかわいいと思う」


 文豪が言う。

 オレは口を開いた。


「オレはギター担当の主人公に共感しながら観てた」


 すると、音海が呟く。


「音楽もののアニメだから観てたけど、断然ベース担当のキャラが好き」


 篠原が言った。


「好きなキャラ分かれてるね。ちなみに私はギターボーカル担当のキャラが好きだよ」


 そして、その後も食べたり飲んだりしながらみんなで歌った後、篠原は音海に提案する。


「歌織ちゃん、次2人でデュエットしない?」

「いいよ」


 篠原は曲を選んで音海にタブレットを見せる。


「これとかどうかな?」

「うん。いいよ。歌える」


 それから、曲を送信した。

 2人はマイクのスイッチをオンにしてから立ち上がって、テレビの横に立つ。

 そして、イントロなしで歌い出した。

 篠原と音海が選んだ曲は、2人組の女子ユニットが歌っているアニメのオープニングだった。


「オレの好きなラノベのアニメのオープニングだ!」


 文豪は声をあげる。

 篠原と音海の声の相性はぴったりで、ずっと聴いていられるくらいだった。

 そして、みんなで会計をしてからカラオケ店を出る。


「次はオタクの好きなところ行くぞー」


 メガネが言う。

 オレはみんなの後ろを歩きながら考えて、を思い出した。


「あのさ、ちょっとここから遠いんだけど、いいか?」


 みんなは首をかしげる。

 篠原が聞いた。


「いいけど……そこってどんな場所なの?」

「行ったらわかる」


 そして、オレはみんなを連れて思いついた場所に向かった。

 電車に乗ってからしばらく歩いて、その場所に着く。

 篠原が口を開いた。


「ここって――」


 オレが好きな場所、それは――。


「植物園?」


 いろいろな花が咲いている植物園だった。


「ここ、小さい頃によく来てて、花を観察しながら絵描いてたなーと思って」

「そういうことか」


 メガネと文豪が納得したようにうなずく。

 篠原が花を眺めながら言った。


「花っていろんな種類があるから、ずっと見ていられるよね」


 すると、音海が言った。


「私も花は綺麗だから好き」

「じゃあ、一緒にまわりながら綺麗だって思う花探そう」

「いいよ」


 そう言って、篠原は音海と2人で花を見に行く。

 メガネが言った。


「オレ喉かわいたから自動販売機でジュース買ってくる」

「あ、オレも一緒に行く」


 文豪が言う。

 そして、しばらく1人で植物園をまわっていると、篠原が隣に来た。


「瀬尾くん」

「篠原。音海と一緒じゃなかったのか?」

「一緒だったんだけど、いろんなところまわってたらはぐれちゃって」

「そっか」


 花を眺めていると、篠原はオレに聞く。


「ここ、私も前に来たことあるよね?」


 オレはうなずいた。


「うん。家族みんなでよく来てた場所」

「やっぱり」


 篠原は笑顔を見せる。

 そして、続けた。


「こうして2人で居ると、なんか、あの時みたいだね。幼稚園の時のこと思い出す」

「そうだな。ここ、オレが絵がうまくなりたいと思ったきっかけの場所だから、よく覚えてるんだ」

「そうなの?」


 オレはうなずいて、小さい頃の話をする。


「うん。初めてここに来た時、花の絵描いてたら篠原に『絵が好き』って言われて、絵がうまくなりたいって思った。オレの好きな場所」


 すると、篠原は顔を赤らめた。


「わ、私そんなこと言ってたの?」

「言ってた」

「そ、そっか。私がきっかけか。なんだか恥ずかしいな」


 オレが言うと、篠原は小さい声で呟く。

 そして、こう続けた。


「でも、それならこの場所は2人だけの秘密の場所にしておいてほしかったなー、なんて」


 その言葉に、オレの心臓の鼓動が高鳴った。


「え?」


 オレは篠原を見つめる。


「おーい。みんなのぶんの飲みものも買ってきたぞー」


 すると、メガネと文豪がオレ達のほうにやってきた。


「あ、ありがとう」


 オレと篠原は言葉を詰まらせながらもお礼を言う。

 そして、音海も合流した。


「朝陽。ここに居たんだ」

「歌織ちゃん! どこに居たの?」

「ネモフィラの写真撮るのに夢中になってたらはぐれた。気づかなくてごめん」

「そっか。私こそごめんね」


 それから、みんなでテーブルを囲んで椅子に座る。

 メガネと文豪が買ってきた飲みものを飲んでひと息ついてから、オレは言った。


「あのさ、思いついたことがあるんだけど」

「何?」


 みんながオレを見る。

 そして、オレは自分が思いついたゲームのアイディアを話した。

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