陽キャアイドルの幼なじみのライバルはつかみどころがなかった件について
オレが本を買ってみんなが居るところに戻ろうとした時。
近くで本を落とす音が聞こえた。
音のしたほうを見ると、女子が膝をついて床に落とした本を拾っていた。
「大丈夫ですか?」
駆け寄って、一緒に本を拾う。
「す、すみません」
その声に顔をあげる。
すると、目の前に居たのは――。
オレ達のあいだで話題になっていた、隣のクラスの笹山美月だった。
青色に近い黒色のストレートのセミロング。
髪の色と同じ瞳。
おしゃれで高そうな紺色のレースのワンピース。
そして、一瞬見ただけでわかる、芸能人のような輝いている雰囲気。
しばらくして、笹山に話しかけられた。
「どうかしました?」
オレは驚いて、口を開く。
「あ、いや、その……同じ学校の人に偶然会うなんて思わなくて」
「同じ学校?」
笹山は首をかしげる。
「オレは1年1組の瀬尾拓夜。あの……違ったら申し訳ないんだけど、1年2組の笹山だよな?」
「うん」
オレが聞くと、笹山はうなずいた。
人違いじゃなくて安心する。
「よかった。合同体育の授業で一緒だったり、オレと同じクラスで演劇部の篠原から話聞いてたりしたから、もしかしたら笹山かと思って」
すると、笹山は言った。
「そうなんだ。ごめん、ぜんぜん覚えてない」
「そっか」
「たしかに私も演劇部だけど、あんまり他人に興味ないから、誰と部活一緒なのかも覚えてないんだよね」
なんだか話し方がおっとりしている。
一緒に本を拾い終わって、オレが棚に戻そうとすると、笹山が言った。
「あ、その本、全部私が買う本だから渡してくれる?」
「え?」
オレと笹山が拾った本は10冊以上ある。
これを全部買ったら、きっとそうとうな金額になるはずだ。
「こ、この本全部買うのか?」
「そうだけど」
もしかして、文豪みたいな読書家なんだろうか。
オレは持っていた本を笹山に渡した。
「ありがとう。本を読むのは私にとって唯一の趣味だから」
そう言って、笹山は大切そうに両手で本を抱える。
その時。
「瀬尾くん」
後ろから、篠原に呼びかけられた。
「篠原」
そして、篠原はオレのほうに歩み寄ってくる。
「みんながそろそろ次の場所行くって。大丈夫?」
「ああ」
「じゃあみんな待たせてるから早く行こう」
篠原はそう言って、オレの右の手首を掴んで引っ張った。
いきなりのことに驚いて目をみはる。
「ちょ……っ、篠原!?」
「こうしないと遅れちゃうから」
「いや、そうだけど……!」
このまま本屋の中を歩くのは恥ずかしい。
しばらくして、笹山が見えなくなったところで、オレの手首を掴んでいる篠原の手がオレの手を握る。
そして、オレはみんなのところに行くまで篠原に手を繋がれていた。
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