陽キャアイドルの幼なじみの服を選んだ件について
――柚木真奈さんのニューアルバム発売記念イベントが1週間後にせまった日曜日。
オレは新しくできたショッピングモールに来ていた。
今オレが居る場所は、女子高生向けのファッションブランドの店の中の試着室の前だ。
だから、女子のお客さんが多い。
そして、何人かで来ている他のお客さんがたびたびオレのほうを見ては、何かを話している。
ダメだ。
これ以上は人の視線に耐えられない。
――そう思った時。
「待たせてごめんね」
後ろから試着室のカーテンを開ける音と、声が聞こえた。
振り向いて、オレは思わず目をみはる。
目に映ったのは、半袖の青色のフレアワンピースを着て、柚木真奈さんのコラボアクセサリーのネックレスをつけた篠原だった。
「……どうかな?」
篠原は顔を赤らめて、小さな声でオレに聞く。
オレは篠原に頼まれて、真奈さんの個別お話し会と握手会に行く篠原の当日の服を一緒に選んでいた。
オレはゆっくりと口を開く。
「よ、よく似合ってる」
すると、篠原は顔を近づけた。
「本当に?」
不安そうな表情で聞いてくる。
「真奈ちゃんのイベントに行った時浮かない? 変だって思われない? この服で大丈夫?」
本当は篠原を笑顔にしたいのに。
学校の制服とは違う、私服の篠原を見たのは久しぶりだから、緊張してうまく声が出ない。
でも――。
オレは意を決して、今思っていることを言葉にした。
「……か、かわいい……と思う」
そう言った瞬間、顔が熱くなって思わずうつむく。
「え?」
篠原は驚いたような声を漏らしたけれど、心臓の鼓動が速くなって、篠原の顔が見られない。
オレはうつむいたまま、言った。
「かわいいし、イベント行っても絶対浮かないし、変だって思われないし、めちゃくちゃ似合ってる」
そして、続ける。
「だから、大丈夫だよ」
しばらくして、篠原の笑い声が聞こえた。
オレは顔をあげる。
そこには、いつもの明るい篠原が居た。
そして、言う。
「ごめんごめん。たっくんがまさかそんなふうに早口で誉めてくれるとは思わなくて」
「オレ、昔から誉めるの下手だからな」
オレが苦笑いをすると、篠原は首を横に振った。
「そんなことないよ、ありがとう。じゃあ服買ってくるからお店出て待ってていいよ」
「ああ」
そう言って店を出ようとした、その時。
店の中に木暮の姿を見つけた。
両手には、服をたくさん持っている。
すると、木暮もオレに気がついてこっちに向かってきた。
そして、いぶかしげな目でオレを見る。
「なんで瀬尾がここに居るの?」
その質問に、オレは焦る。
まずい。
篠原と一緒に居るってことはバレないようにしないと。
「そ、その、姉ちゃんと買いものに来てて……」
そう言うと、木暮は納得したように言った。
「そうなんだ」
なんとかはぐらかせたみたいで、オレは胸を撫で下ろす。
「木暮こそなんでそんなに服買おうとしてるんだ?」
話題を変えようとして聞くと、木暮は小さな声で言った。
「……資料用」
「え?」
木暮の言葉に、オレは首をかしげる。
すると、木暮は口をとがらせた。
「瀬尾には関係ないから」
木暮はオレに冷たい気がする。
「そ、そっか。ごめん」
「じゃあ私、もう行くね」
「ああ」
そして、木暮はレジに向かった。
しばらくして、篠原が会計を終えて戻ってくる。
「おまたせー」
すると、オレの様子を見て篠原は首をかしげた。
「ってたっくん、どうかした?」
「いや、今店の中で木暮に会ってさ」
「夕乃に?」
オレはうなずく。
「たくさん服持ってたからなんでか聞いたんだけど、教えてくれなくて」
「そうだったんだ」
そして、オレは真奈さんのイベントを楽しみにしている篠原の話を聞きながら、一緒に帰り道を歩いた。
――そして、真奈さんのイベント当日の夜。
オレは家で篠原からのイベント終わりの連絡を待っていた。
ベッドの上で、オレはため息をつく。
「オレもイベント行きたかったー……」
自分の部屋から出て廊下を歩いていると、リビングから姉ちゃんと誰かの声が聞こえた。
気になってドアを開けようとした時、姉ちゃんが言った。
「でもみんな知ったらびっくりするよね。まさかうちの大学に柚木真奈が居るなんて」
……え!?
オレは驚いて、その場に立ちつくした。
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