Voice.7 ……どうかな?
陽キャアイドルの幼なじみがイベントに当たった件について
――音海がゲーム制作部の仲間になった次の日。
オレが学校に行こうとした時、家のインターフォンが鳴った。
玄関に行ってドアを開ける。
すると、そこには篠原が立っていた。
そして、今まで以上の笑顔で食いぎみに声をあげる。
「たっくん! 私、当たったよー!」
見たことのない篠原のテンションに、オレは戸惑った。
「な、何が?」
すると、篠原は嬉しそうにスマートフォンのメール画面を見せる。
「真奈ちゃんのCD発売記念の個別お話しと握手会!」
「え!?」
このあいだ篠原と一緒に行ったメイトで柚木真奈さんのCDを買った時、イベント応募券が配られた。
イベント応募券とは、イベントに応募して抽選で当たると、指定された日に開催されるイベントに参加できる、という券だ。
オレは驚いて、篠原のスマートフォンのメールを確認する。
メールはメイトからのアドレスで送信されていて、「篠原朝陽様 平素より格別のご高配を賜り厚くお礼申し上げます。お客様は厳正なる抽選の結果、本イベントに当選いたしました。おめでとうございます!」と書かれていた。
「本当に当たってる……」
「すごいよね! 真奈ちゃんと会って話せるんだよ!」
オタクからしたら夢のようなことだ。
オレには当選メール来てないから正直めちゃくちゃうらやましい。
「よかったな。篠原」
「朝起きてメール見てたら当選メール見つけて、信じられなくて大きい声で叫んじゃったらお母さんにうるさいって怒られちゃった」
「まあイベントとかライブの当選メール来たら普通驚いて叫ぶよな」
そして、オレ達は家を出る。
すると、篠原は楽しそうに言った。
「あー服何着て行こうかなー。やっぱり真奈ちゃんのイメージカラーの青色系のコーデかなー。あ、このあいだ真奈ちゃんとアクセサリーブランドがコラボしてたネックレスつけて行こうかなー」
篠原、そうとう浮かれてるな。
「いいと思う。真奈さん、そういうさりげないものにすぐ気づくからきっと喜ぶよ」
「うん!」
篠原が笑顔で言う。
そして、オレ達は学校に向かった。
放課後の部活の時間に、ゲーム制作部としての申請書を生徒会に提出する。
生徒会長がそれに判子を押して、言った。
「はい。たしかに申請書を受理しました。今日からゲーム制作部を部活動として承認します」
オレと篠原とメガネと文豪は顔を見合わせる。
音海はオレ達の後ろで澄ました顔をしていた。
メガネが声をあげる。
「じゃあこれからみんなでゲームを作るぞー!」
「おー!」
それから、みんなで顧問の先生にゲーム制作部の部室に案内された後、顧問の先生に自己紹介された。
「今日からゲーム制作部の顧問になります。
天沢先生は黒色のウルフカットの男性だ。
みんなで、よろしくお願いします、と挨拶をする。
「まあ名前の通り学生の時から秋葉原に通ってたオタクなので、気軽にアキバ先生って呼んでください」
そう言うと、さっそくメガネが手を挙げた。
「はい! アキバ先生!」
「なんですか? 目崎くん」
「好きなゲームについて聞きたいです!」
「いい質問ですね!」
すると、天沢先生は少年のような目をして語り出す。
「好きなゲームは小学生の頃にやったRPGなんですけど、当時は全部ドット絵というもので表現されていて――」
そして、先生の話は部活が終わる時間になるまで続いた。
オレ達と話が合いそうでこれからが楽しみになった。
そして、家に帰って柚木真奈さんのラジオを聴きながら勉強をしようと思ってスマートフォンでラジオのアプリを開いてイヤフォンをつける。
午後9時になり、柚木真奈さんのラジオのジングルが流れて、オレは教科書とノートを開いて勉強を始めた。
「柚木真奈の
耳もとで聴く柚木真奈さんの声で勉強がはかどる。
しばらくして、真奈さんはこう言った。
「では続いてリスナーの皆さんから届いたおたよりを読むコーナーに行きたいと思います。えーっとリスナー名、『あーちゃん』からいただきました」
「え?」
聞き覚えのあるリスナー名が聴こえて、オレは思わず驚いて勉強する手を止めた。
「あーちゃん」というのはオレが小さい頃に呼んでいた篠原のニックネームだ。
「いや、でもまさか……さすがに別人だよな」
そして、真奈さんはおたよりを読み始めた。
「『真奈ちゃんはじめまして。初めておたよりを送ります。いつも真奈ちゃんの出演している番組を観たり歌を聴いたりして元気をもらっています。私はこの春から高校に入ったのですが、友達に言えていない秘密があります。その友達はとても仲よくしている友達なのですが、もし言ったら友達との関係が壊れてしまうのが恐くて言えません。最近、友達に嘘をついて本当の自分を見せていないみたいで辛いと感じる時があります。真奈ちゃんだったらこんな時どうしますか?』」
間違いない、おたよりの内容からして篠原だ。
それにしても篠原、イベントに当たっておたよりまで読まれるなんてすごいな。
すると、真奈さんはこう言った。
「高校生! いいなー! 私は今大学生だけど、高校卒業しちゃうと制服着ることないからうらやましい! おたよりの内容も、学生ならではって感じの悩みだね」
なんか今の真奈さんの声、いつもよりやけにテンションが高かったような気がする。
真奈さんは少し間を置いて、言った。
「誰にも言えない秘密があって、あーちゃんはそれを友達に打ち明けるかどうか悩んでるってことだけど、その友達はすごく仲がいいんだよね? だったら、秘密を打ち明けても関係が壊れたりなんてしないと思う。私も同じような経験があるけど、秘密を打ち明けた子とは今も親友だよ」
スタッフさんが「打ち明けた秘密ってなんですか?」と聞くと、真奈さんは恥ずかしそうに笑って言った。
「友達に自分が柚木真奈だって打ち明けたことです」
あ、そうか。
真奈さん、「柚木真奈」は芸名だって前に言ってたっけ。
「よーし! そんなあーちゃんを応援するために、この応援ソングいくよー!」
そして、真奈さんはファンに人気の高い応援ソングを流した。
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