陽キャアイドルの幼なじみと一匹狼アーティストを探した件について

 ――放課後。

 オレ達ゲーム制作部は、部活の5人目の仲間を探すため、学校の壁に部員募集のポスターを貼っていた。

 メガネが言う。


「それにしても最初は部員集まるか不安だったけど、けっこう早く集まるなー」

「そうだな」


 オレが相槌を打つと、文豪が言った。


「もしかしたら超人気の部活になったりして。部員数30人とか」


 オレはそうなった部室を想像する。

 そんな人数居たらみんな部室に入りきらないだろうな。

 篠原は苦笑いした。


「それはさすがにないと思う。けど……」


 そして、貼り終わったポスターを4人で眺める。

 それから、篠原は続けた。


「5人目は、早く集まるかもね」





 1週間後――。


「来ない!」


 5人目の入部希望の生徒は来なかった。

 屋上でメガネが叫ぶ。

 オレ達3人は屋上で昼飯を食べていた。

 篠原は明石達と教室で食べているので、ここには居ない。

 文豪が言った。


「よく考えたら作詞作曲できて歌える人探すってすごく難しくないか?」

「まあ作詞作曲できたら音楽系の部活行くだろうしな」


 オレが言うと、メガネはため息をついた。


「どうしよう……。このままだと部活じゃなくて同好会になるんだけど」


 何か方法はないか考えていた、その夜。

 自分の部屋に居た時、家のインターフォンが鳴る音が聞こえた。

 玄関に行ってドアを開けると、篠原がタッパーを持って立っていた。


「篠原」

「あ、たっくん」

「ど、どうした?」

「晩ごはんのカレー作りすぎちゃったからおすそわけ」

「ありがとう」


 篠原からタッパーを受け取る。

 すると、篠原は続けた。


「あ、それで、ちょっと相談があるんだけど」

「え?」


 そして、篠原をリビングのダイニングにとおして、お茶を出した。

 リビングには母さんと姉ちゃんが居て、父さんはまだ仕事で家に帰っていない。

 キッチンでタッパーを開けると、おいしそうなカレーが入っていた。

 それを、ご飯を盛りつけたカレー皿に取り分ける。

 そして、それをダイニングテーブルに置いた。


「わー。すっごくおいしそう」


 姉ちゃんが声をあげる。


「本当ね。お店で出てくるやつみたい」


 母さんが言うと、篠原は顔を赤らめた。


「見た目はいいけど、おいしいかどうかはわからなくて……。私が作ったから」


 篠原の言葉に、オレは驚く。


「え!? これ、篠原が作ったのか?」

「うん。朝から煮込んで私が作ったよ」


 篠原は自信なさそうだけど、すごくおいしそうだ。

 3人で手を合わせて、声をそろえて言う。


「いただきまーす」

「ど……どうぞ」


 篠原に言われてから、オレ達3人はカレーをスプーンですくって食べる。

 すると、スパイシーな辛さが口いっぱいに広がった。


「……おいしい」

「本当に!?」


 ふと出た感想に、篠原が詰め寄る。


「本当だよ。すごくおいしい」

「よかったー」


 オレが言うと、篠原は安心したような顔をした。


「おいしい! 朝陽ちゃん料理上手ね」


 母さんが甲高い声をあげる。


「うん。毎日食べたいくらい」


 姉ちゃんが言う。

 すると、篠原は恥ずかしそうに笑った。


「みなさん、いくらなんでも誉めすぎですよ」


 そして、篠原の相談を聞くために、2人でオレの部屋に移動する。

 篠原にオレの部屋を見られるのは初めてだから、なんか緊張する。

 そして、オレがドアを開けて入るのに続いて、篠原が部屋に入って言った。


「わー。たっくんの部屋私の部屋に似ててなんか安心する」


 そりゃそうだ。

 オレの部屋は柚木真奈さんのCD、ブルーレイ、アクリルスタンド、タペストリーに囲まれたオタク部屋なんだから。

 篠原の部屋とほぼ変わらない。

 だけど……幼なじみっていっても、いちおう男の部屋なんだけどな。

 変わらない篠原の様子を見て、なんでかわからないけどちょっと落ち込む。


「たっくん、どうかした?」


 篠原に呼ばれて、オレは我に返った。


「な、なんでもない」


 そして、篠原と向かい合って座る。

 すると、篠原は何かに気づいたように言った。


「あ、たっくん」

「何?」

「ちょっと動かないで」

「う、うん」


 まっすぐ見つめられて、胸の鼓動が高鳴る。

 そして、篠原はハンカチを取り出して、オレの口をぬぐった。

 それから、笑顔を見せる。


「口にご飯粒ついてた」

「あ、ああ。ありがとう」


 その仕草に、別のことを期待してしまった自分がちょっと恥ずかしくなる。


「それで、相談っていうのは何?」


 篠原は口を開いた。


「今日の帰り道に真昼から聞いたんだけど、放課後にすごく声の綺麗な女の子の歌が聴こえるって噂があるらしいの」

「本当に?」

「うん。夕乃とか他の友達とかにも確認したけど、何人も聴いたって言ってた」

「そっか」

「だからもしかしたら、その人だったら私達の部活入ってくれるかもしれないって思って」

「そうだな」

「でもどうやったらその人に会えるかなって考えてたんだよね」

「うーん……」


 その時、オレはあることを思いついた。

 それから、篠原に聞く。


「なあ、たしか篠原ってピアノ習ってたって前に言ってたよな?」


 すると、篠原は不思議そうな顔をして言った。


「うん。今も習ってるけど」


 それを聞いて、オレはあることを思いついた。

 そして、言った。


「やってみたいことがあるんだ」





 ――次の日。

 オレはゲーム制作部のみんなと音楽室に居た。

 篠原が言う。


「準備できたよ」

「よし。じゃあ篠原さん、弾いてくれる?」


 メガネが言った。


「わかった」


 そして、篠原が曲の伴奏をピアノで弾き始めた。

 ――その時。

 曲に乗せて、女子生徒の声が聞こえてきた。

 そして、オレ達3人は歌声をたどるように走る。

 そして、屋上のドアを開けた。

 そこに居たのは――前にオレ達と一緒に音読をした、夕日に照らされて歌う音海歌織おとみかおりだった。

 曲を弾き終わった篠原も合流する。

 すると、篠原は目をみはって声をあげた。


「……思い出した!」


 篠原は音海に駆け寄る。

 そして、目を見て言った。


「私達、カラオケで会ったよね!?」

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