第13話 半分エルフに生まれたの
エルフについて知りたくて。いや、実際には両親のことが知りたくて。小岩井 静香はライトノベルをたくさん読んだ。日本の昔のライトノベルには、エルフに関する変な解釈がたくさんあった。
総じて貧乳だったり、巨乳のエルフもいたり、どうして作家の間で価値観が共有されなかったのだろうか。子供が生まれにくいエルフというのは、母乳育児の必要性も低く、女性のおっぱいも成長が穏やかだった。
自然と共に暮らしていたり、サブカル趣味があったり、エルフは様々な解釈を与えられた。男性のエルフが登場する作品は、数に限りがあった。日本の文化に浸かるのは、女性のエルフ特有のラノベ仕草だった。
ライトノベルを読んでも、どうして自分が両親に捨てられたのかは分からなかったけど、静香にも趣味ができた。創作物に描かれるエルフと同様に、ハーフエルフの静香も日本のカルチャーが好きだった。
アニメや映画はとくに好きだった。魔法の発明があり、それに着いていけなかった日本だけど、アニメ、音楽、漫画など世界に通用する文化は続いていた。文化を続けるということに関して、日本はとても優秀だった。ただ、新しいものが苦手なのだ。そこらへん、エルフと日本人は似ている。
日本も言語は公用語に統一されているから、日本語を覚える必要はなかったのだけど、静香はアニメを見て日本語を覚えた。やっぱり、日本で創作をするなら、日本語でないといけない。『ライトノベル』と『純文学』どちらを書こうか迷ったときに、やっぱりアニメの影響は強かったのだろう。静香はライトノベルを選んだ。
「……陽斗兄さん」
面接の会場にいたのは、静香の兄の陽斗だった。静香に兄妹はたくさんいた。陽斗はそのなかでも養子の静香を受け入れてくれた方だった。陽斗は面接官だった。学生が面接を行わないといけないほど、イルザック学院は人員不足なのか、それとも日本が下に見られているのか。
「陽斗兄さんが面接官なんだ。学生なのに?」
「イルザック学院にも様々な事情がある」
「日本が下に見られているの?」
「……結果的にはそうだ。日本に目を付けたのは俺たちの派閥だけだった。俺たちの主のリンロールは比較的若いエルフだから、日本の評価をアップデートする柔軟な思考を持ち合わせていた。若蝶以来、日本という単語はイルザックでも耳にするが、どのエルフもどの生徒も、日本に注目するまでには至っていない」
「ありがたいけど、悔しいね」
「仕方がないことでもある。一族で一番魔法が優秀だった俺ですら、学院では名前が埋もれている。個々の能力で突出した日本人は稀に現れるが、日本という国の評価には繋がらない」
小岩井家に課せられた使命は、日本再興だ。
しかし、その使命は百年間、果たせられないでいる。
「日本には個ではなく、集団をまとめるリーダーが必要だ」
「それが、千巻 藤糸郎くん」
「それと、お前だ。小岩井 静香」
「……わたし?」
ハーフエルフは禁忌の存在。表舞台に出てはいけない。生みの親はそう言って静香を捨てた。だから静香は、こぢんまりと生きてきた。表舞台に上がる準備はできていない。ハーフエルフがどういう存在なのか、自分でも分からないのだ。
「わたしが表舞台に上がると、両親に迷惑がかかるって」
「正直言って、日本にとって、小岩井家にとって、静香の生みの親なんてどうでも良い。それに、静香の親は、小岩井 重利と小岩井 春姫。そして、静香の兄は俺だ。静香も、自分の好きなように生きろ」
「……そんな」
「日本のために、そして小岩井家のためになるのは、イルザック学院に来て日本人として名誉を得ることだ。面接は合格にする。その合格を受け取って、どうするかは静香が決めろ」
最後の選択権を静香に与えたのは、兄の優しさだろうか。ハーフエルフの12次元を知覚する能力があれば、イルザック学院でも他に類を見ないほどの成績を収めることができる。エルフとしての才能と、人間としての活力が静香にはある。
その活力を封じ込めて、こぢんまりと生きてきた。
才能を持て余していた。
「……陽斗兄さん、わたしね、夢があるの」
「……なんだ?」
「わたしはライトノベル作家になりたいの。それでね、エルフが人間と恋に落ちる物語を書いて、ハーフエルフだって愛の結晶なんだって、わたしのために、そういう物語を書きたいの」
静香の夢はライトノベル作家になること。
「そうか……」
「それでね、ライトノベルを書くのはイルザック学院でもできると思うから、わたし留学するね。半分エルフに生まれたけど、もう半分は日本人だから、わたしも日本のために頑張るね」
「そうか!」
陽斗の喜んだ声を、静香は久しぶりに聞いた。
懐かしくて笑みがこぼれる。
静香はイルザック学院への留学を決めた。ハーフエルフの自分を学院の生徒が受け入れてくれるかは分からない。差別や偏見は怖い。そして静香は日本人だ。多くの学生から下に見られることだろう。
それでも、きっと藤糸郎が守ってくれる。彼も入学に合格しているはずだ。鯨王候補である彼を迎えるための試験なのは、分かりきっていることだ。藤糸郎はレッドクイーンを目の前にしても、静香を見捨てなかった。学院の生徒に、怯むような男ではないと、静香は知っている。
それに甲斐性もある。
それから意外と夜も上手だ。
無類の信頼が、芽生えていた。
JPOP~竜の子と小説家~ フリオ @swtkwtg
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