3話

足音が一つ、また一つと着々と増えていく。最初はまばらに増えていた足音も、やがて屋根を打つ大雨のような密度になっていく。

見つけては道を変え、見つけては目立つ場へ立ち、影の注意を最大限引き付ける。

そしてその行動の過程で影についてわかったことがいくつかあった。


「まずひとつ。影にはそこまでの知能はないってことだ」


明らかな壁やあからさまな落とし穴は避けて追ってくる。なので当初幸太郎が定めていた落とし穴に落として腹抱えエンドは不可能ということも芋づるで知ることができた。


「そんでふたつめ。――アクロバティックさが足りねぇ」


影たちには壁を乗り越えたりする気概がないのだ。これではいくらでも逃げることができてしまう。――スリルが、足りない。


「っとと」


そんなことを考えている間に、いつの間にか追加される足音はまばらになっていく。新規個体が少なくなったら、そろそろ潮時の証拠だ。

闇雲に逃げ回ることをやめて、目測都合30体の影を引き連れて幸太郎が向かう場所は建設途中の現場である。

のそのそと幸太郎の後ろをついてくる影たちは、自身らが今どこに向かっているのかを把握していない。――だからこそ、常人なら理解し回避できる撃破方法を適用できるのだ。


「鬼さんこっちら、手のなる方へ〜」


手を叩いて存在を主張する幸太郎の立つ場所は建材の山がある屋内だ。ほしかった刃物も見つけた。建設現場だから、手に入れるのは容易だろうと思っていたが、思った以上に簡単に見つかって、管理体制の心配をするほどだ。

その山の上に立つ逃亡者を見つけた選定者は、一も二もなく迫っていく。――そこが墓場になるとも知らずに。


「さぁて」


両手を合わせて影を見下ろす。30体ちょっとの、その最後の影。それが屋内に入ったのを見届けた瞬間に、幸太郎は資材を止めてある紐を切り――蹴り落とす。影は最初の何体かを覗いてほぼ全体が避けてしまったが、残念ながら幸太郎の狙いはそこではないのだ。

木材を何個か転がして、入口を塞ぎ――、


「じゃ、トンズラさせてもらいまぁす」


満面の笑みで呟く。窓から体を滑らすように出し、自分の命を多少なり危険に晒してくれた彼ら彼女らには感謝と敬意を、


「まぁ、別にいらないか」


ショベルカーのアクセルに重しを起き、進むのみになったそれをみて幸太郎は呟く。影を閉じ込めた部屋にショベルカーはぐんぐんと加速を得ながら突っ込んでいき――、


「どかん!」


その言葉とともに、影とショベルカーはセットで大破を果たすことになった。





「う〜ん」


中性的な声が響く。その少年がどこにいるかはあたりが暗くてよくわからないが、その少年が誰かはすぐさま特定することができる。――なぜなら、このゲームを引き起こした張本人なのだから。間違えようはずがない。


「だいぶ減ったなあ。そろそろあの子たちも強くしよっかな」


にこにこと、天真爛漫な笑顔で、少年は小さく呟いた。

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