2話
「それじゃあ、スタート!」
少年が腕を振り下ろして、ゲームが始まった――。
「……で、なにやりゃいいんだよ」
数分待てど何も起こらず、先の昂りは空振りなのかと嘆きの感情が頭を見せてくる。
その場に佇む幸太郎は、何かのイベントか悪ふざけの類だと当たりをつけて、ひとまず、再び退屈な学校へと向かおうとする。――その矢先。
「やっぱさぁ、ただの悪戯だって。なんもおこんねーじゃん」
「えーやばーい」
後ろから特筆する点のない声が聞こえた。見ても特に言い表せる特徴のない、二人の男女。振り向いた体制で彼らを見た幸太郎は――否、幸太郎だけが気づく。
――男女の背後に、『影』が迫ってくることに。
影と、そう形容するしかない存在だった。人形をしているがどこか物理的に薄っぺらく、かといって人物の判別を果たす顔は黒塗りで、皮肉にもその顔が一目で人間でないと判別できる要素になっていた。
「なんだっ……こい――」「……えっ」
男が悪態を、女が驚愕を吐こうとするが、それより影が動くほうが速い。口が言葉を紡ぎ切る前に影の両手がは男女の顔に触れ――、
「……まじか」
――顔が、『吸い取られた』。吸い取られた男女は顔が黒く染まり、首、肩と黒が侵食していく。そうして10秒もすれば、新たな影の出来上がりだ。
それをまざまざと見ていた幸太郎は、心が沸々と沸き立つ自覚を持つ。
「はは……ははは……っ!」
笑みが口の端から漏れ、ひとまずゲームの『選定者』を、幸太郎は知った。
1
右も左もわからぬままに唐突に始まったゲーム。このゲームはいつ終わるのか、まずという枕詞がついているのならまだまだこれは序章なのか。
そんなことを脳裏に転がしながら――、
「うわっはは……っ! やっべぇぇ!!」
幸太郎は必死に足を回して走っていた。
後ろから迫るは先刻の影1体+影にされた元男女の2体である。
足はそこまで速いわけではないが、追いつかれたら即死というスリルが逃げる者の精神、ひいては体力を削っていくので、そこまでハンデがあるというわけでもないだろう。
「あいつらが選定――『選定者』なら、俺は『逃亡者』ってとこか?」
足と同じく思考も回す。選定と釘打たれている以上、必ず終わりはある。それは確かだ。だが、その終わりはどうすれば訪れるのか。それが不明点。
「普通に考えるなら、逃亡者が一定数を下回れば終わりってとこ……ぉうわっ!」
思考を口に出し、曲がり角を曲がった瞬間、更に影が5体追加。
「やっべぇこれ……っ!」
そう――笑いながら言葉をこぼす。
幸太郎自身は、自分が笑っていることに気づいていない。
端から見れば今この状況で笑っているだけで十分狂人だ。
曲がり角からルートを変えて、走ってきた道を戻る方向で方針を固める。だが、今すぐではない。――もっともっと、影をひきつけてからだ。
「こんなスリル、そうそうないんだ。……楽しまなくっちゃ」
――狂人は楽しそうに、汗を滴らせて舌なめずりをする。
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