血と傷を以って貴方に愛を
@kubiwaneko
1話
――いつも、1人でいいと思っていた。1人がいいと思っていた。
世界には自分以外の生命はいらないし、その結果自分が死んでも構わない。むしろ、そうやって死にたいと、ずっと前から思っていた。
死ぬときは、誰にも囲まれずに死にたい。
「……して……だ……ね」
だから、こんな人目につく所で死ぬわけにはいかないのだ。
こんな、ところで――!!
「……っ!」
「ここのみんなにはデスゲーム、してもらおうと思うんだよね」
死物狂いで意識の首根っこを掴んで、現実に回帰すると同時に聞こえたのは、その中性的な声から聞こえたとは思えない内容のものだった。
周りを見れば、自分が倒れた場所から全くの変化は無い、いつも通りの街の風景がそこには広がっている。
いつも通りのコンクリート製の道路、いつも通りの少し錆びたガードレール。いつも通り立ち並ぶマンションやビルの数々。
ただ1つ違うのは――、
「ルールは単純! 先に死んだ方のまけ!」
――一際高いビルを背にして、そのビルの中心当たりに浮かんでいる少年だ。
ここからそこそこの距離があるにも関わらず、はっきりと見える姿と明瞭に聞こえる声は、少年が異常であると誰にとっても一目で痛いほどよくわかった。
可愛らしい笑顔をしており、一言で表せば愛嬌のいい子、と言えるだろう。
切れ長でツリ目の目には宝石のように煌めく双眸が収まっており、色白で触り心地の良さそうな肌がその目を更に際立たせている。
艶がありながらもサラサラとしている黒髪は目にかかるほどの長さであり、セット等はされておらず、目にかかるほどの長さ。ショートが一番近い言い表し方だろうか。
「一対一で戦って、死んだらまけね!」
――というか、先刻から耳に響く声と共に届く発言の内容はなんなのだろうか。覚醒の直後ということも相まって理解が進まない。
「まずは、選定」
遠目に見えるにこにこと笑う少年の格好がよく見える。
黒を主体とした軍服のような服とベレー帽を被っているが、そのどちらもがサイズが合っておらずぶかぶかだ。胸のあたりに金色の小さい鎖のような物がついており、その装飾品のみで少年の顔の良さがより強調されている。
「……は? てか、今なんて」
「それじゃ、スタート!」
ぶかぶかの袖が空を切る。
服が風になびく音と共に、何もかもわからない状態でゲームが始まった。
「……なにがおこってんだよ」
青年――
■■■
――欠伸を噛み殺しながら、また始まる今日という日を軽く鬱に思いながらも歩みを進める。
制服にしっかりと袖を通す青年は中肉中背で黒髪黒目。特出した特徴などない、普通の人間である。
少し情報を付け加えるなら、普段の思考が常人とは少しズレている点くらいだろうか。
「学校……たのしくねー……」
いつも言っている気がする。最早口癖だろう。
幸太郎は人と関わること自体が好きではないのだ。だから、無理矢理とはいえ通っている高校が嫌いでならなかった。
――否、どんな環境であっても、人間自体に好感が持てないのである。
遅刻しない程度で歩みを進めるが、歩く方向と抱く感情は真逆に等しい。
錆びたガードレールになんとなしに目をやりながら、また今日も始まる憂鬱な日々に溜息を漏らし――そして、世界が暗転する。
「それじゃあ、スタート!」
何が起こったのかもわからず、これから何が起こるかもわからない困惑だらけの状況だが、幸太郎の心中はそれほど荒れていなかった。
むしろ、幸太郎の心は躍っていた。
「……つくづく、思ってたんだ」
――1人で死にたいなら、自分以外の全員がいなくなればいいと。
口角を上げて、歪んだ笑みを浮かべて――
「はは……っ!」
命を賭けたゲームが始まった。
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