第7話

 昼休みになると、とたんに教室内は喧騒に包まれる。


 おれとサルは、自分の席に座ったまま、カバンからそれぞれ昼食をとりだした。おれたちのところへ、大きな包みを持った蔵之丞が、いそいそと近づいてくる。

 お坊ちゃんの蔵之丞は、いつもお手伝いさんの力作となる三段重ねの重箱持参だ。食いきれないかと思いきや、そこはオトコらしく残さずいただいている。


 おれの弁当はというと、朝に千賀子の喫茶店でいろいろな仕込みをする中に、サンドウィッチという軽食も含まれていて、それが毎日の弁当になっていた。

 おれと千賀子は、一緒に食べることはありえないために、いつも同じサンドウィッチを食っているなんてことは、このふたりには気づかれていない。


 今日のメニューは、アボカドと玉子、それに水にさらした薄切りの玉ねぎを、バターの代わりにオリーブオイルを塗ったパンのあいだへ、マヨネーズソースとともにはさむ。いかにも女子が好みそうな一品だ。

 さらに、薄切りの豚肉を重ねて作ったミルフィーユとんかつをマスタードソースにくぐらせ、千切りキャベツとはさんだカツサンドも作った。ボリュームがありながら、これまた女子好みにやわらかく食べやすいサンドウィッチだ。

 間違いなくおれは、千賀子の胃袋をつかんでいるはず。


 機嫌よくサンドウィッチにかぶりつくおれへ、購買部で買ってきた焼きそばパンをほおばりながら、サルが話しかけてきた。


「今日の放課後、昴はヒマだろう? カラオケいこうぜ」

「カラオケかぁ」


 気持ちが入っていない返事をしながら、おれは千賀子のスケジュールを思いだす。

 千賀子は、今日の放課後も合唱部の練習がある。歌うことすべてが好きな彼女は、友人が誘えばカラオケにもいそいそとついてくるが、部活があるとなるとそうはいかない。


「カラオケ行こうよ。一緒にデュエットしようよー」

「行ってもデュエットはしない。ひとりで『ぼくたち男の娘』を歌ってろ」

「ひどぉい」


 隙あらば、ひとくち大の玉子焼きを箸で口もとまで運んできて「あーん」を企てる蔵之丞の攻撃から顔をそむけ、おれは窓の外へと視線を転じた。


 千賀子は、合唱部の仲間たちと一緒に帰宅するだろう。

 それほど遅くならないし、下校時間はまだ空は明るい。


 おれは、フムと思案した。

 たまには、こいつらに付き合ってカラオケってのもありか……。



  • Xで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

新規登録で充実の読書を

マイページ
読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
フォローしたユーザーの活動を追える
通知
小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
閲覧履歴
以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
新規ユーザー登録無料

アカウントをお持ちの方はログイン

カクヨムで可能な読書体験をくわしく知る