「本日お休みをいただいておりましたものが出勤いたしましたおはようございますジョーさん」
「おはよう、そう怒るな。また休みは好きにしていいから」
「…今回は何ですか。また大人数とか?昨日やったばっかっすけど」
「いや、1人だけだ」
「じゃあ他にもいるじゃ、」
「探偵なんだよ。しかもこの事務所」
パソコンの画面をラオの方に向けると、一瞬にして顔が引きつった。
「これ、サクラの事務所じゃないっすか…?え、まさかサクラが狙われてるとか⁉」
「違う違う安心しろ、柳シュリというまた別の女探偵だ」
「そうですか…。とういうかその人、ナカマ食堂の会員なんじゃないですか?探偵殺しの依頼なんてかなり珍しいですし、ジョーさんが受けるとは思えないんですけど」
ナカマ食堂へ通うものたちの安全はある程度保障されている。お客同士での争いや詮索は一切禁止というルールを皆が理解して利用しているのだが…
”暗黙のルール”
柳シュリはこれを破ったらしい。依頼メールに書いてあったわけではないが、先代の社長から
「このメールから依頼が来たときは、ナカマ食堂の暗黙のルールを破った奴らだ。客として出入りしていたとしてもかまわず依頼を受けろ」
という風に教えられていた。俺も社長から命じられて仕事を請けたことがある。その時は、女の探偵だったか…。どうやらこれは、ナカマ食堂の大将が依頼している訳ではないらしく、もっと上の、もっと入り組んだ組織からの依頼らしい。俺も深くかかわりたくはないからそれ以上の事は知らないが。
「そこは気にしなくていい。依頼を受けてこちらがペナルティを負う事はない」
「…なんか深く聞かない方が身のためな感じするんでとりあえずやります」
「おうよろしく。付き添いの奴にはもう話し通してあるから、詳しくはそっちで聞いてくれ」
「了解っす」
うちの会社はスピードが売りなのだ。殺しから後始末までの一連をすべて請け負っているのですぐに対応ができる。調査に強い人員も備えているので迅速な業務が実現できる。今回も今日中に片が付くだろう。
しかし、この依頼を受けるもの久しぶりだなぁ。前に来たのが5年位前だったか。あそこに通っていて”暗黙のルール”の存在を知らない奴がまだいたとは驚きだ。かわいそうだがこればかりは世の中を知らないという自業自得としか言いようがない。俺らみたいな殺し屋がターゲットになる事はまぁない。5年前もその前に依頼が来た時も、先代の社長から教えられた時も、ターゲットは皆探偵だった。ナカマ食堂を紹介される際に伝えられる決まりは3つ。
① お客様同士でのトラブルは控えていただくようお願い致します。
② お会計は現金のみとなります。
③ 一元様お断りとなります。
職場の先輩に紹介されることがほとんどだろうし、その時に教えられるはずだ。更には会員証を店の入り口でかざすとリーダーの方に表示もされる。この3つしか教えないとは何とも不親切な先輩だな…いや、知っていてやったのか。
”ナカマ食堂に関する詮索の厳禁”
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