おわり?
しばらく無言の時間が流れ、そして魔女が勢いよく起き上がった。
「お母様! なんか、聞いてた話と違います!」
「し、知りません! お母様なんて知りません!」
「ひどい!? 見捨てられた!?」
うん。分かってたけど、やっぱりアスティの差し金ということだね。
「ふう……。よし。言い訳を聞こうか」
ボクがアスティに言うと、にっこりと言った。
「演技が下手なあいつが悪いです」
「お母様!?」
こいつためらいなく身内を売ったな……! さいっていだこいつ!
「アスティ。それはひどいと思う。ボクの好きなアスティはもっと誠実な……」
「ラスボスとして私が自我ある魔物をこの世界の人間を参考に生み出しました。なのでこの子は私のことをお母様と呼んでいます」
「あ、うん……」
『ちょろい』
『それでいいのか女神様』
『むしろリオンが全てなのでこれでいいのです』
なんだかなあ……。いや、いいんだけどね……。
「ちなみに当初の計画ではどうだったの?」
魔女に聞いてみると、すぐに答えてくれた。
「あなたの攻撃だけが私に通用すると見せかけて、全力の魔法で私を倒す、という流れ……になるはずだったんだけど……」
ふっと、魔女が自嘲気味に笑った。
「最初からめちゃくちゃだったわね……」
最初。それはもう、名乗りの部分から。なんというか、最初から最後までぐだぐだだったね。緊張していたのかな?
それはともかく。とりあえずこれでダンジョンクリア……なのかな。いやもう、何の実感もないけど。
アスティとしては、ここでボクが魔女を倒すことで少しでも実感を持ってもらおうとか考えていたんだと思う。さすがにアスティが出しゃばりすぎていたし。でも結局はこの結果。
アスティを見ると、さすがにちょっと困ってるようだった。これでクリアはやっぱり難しいかな?
「アスティ。ダンジョンやり直した方がいい?」
「え? いえ、別に。それは別に構いませんが」
いいんだ……。じゃあその困った顔はなんなのか。
「この子、どうしようかと」
この子。つまり、魔女。魔女はえ、と固まって、顔を真っ青にした。
「あ、あの、お母様?」
「ここでボスを続けてもらってもいいのですけど、まず誰もたどり着けないと思うのですよねえ」
「おい」
『誰もたどり着けないと女神自身が言うんかい』
『八層が完全に殺しに来てたから仕方ないかもだけど』
『一万メートルのフリーフォールは普通に死ねる』
パラシュートとか用意したとしても、猛吹雪だからね。むしろ風をよく受けてもっと危ないと思う。今のところどうやって対応するのか、正直分からない。
いずれは誰かが到達する……のかもしれないけど、それもまだまだ先の話だろうね。
「いえ、あの、お母様……。それを言えば、九層の旅館とかも……」
「旅館はリオンさんたちが利用できるでしょう? でもあなたは……無駄ですね……」
「ぴぃ!?」
あれ、これマジでアスティのやつ、処理しようとしてない? 悪い意味での処理をしようとしてない? 鬼かこいつ。
「もういっそ、削除しても……」
「ねえ、アスティ」
「え、はい。どうしましたかリオンさん」
「まさか消したりとか……しないよね?」
「もちろんじゃないですか!」
『すっげえ笑顔で平然と嘘つくじゃん』
『削除とかぼそっと言ってたの普通に聞こえたんですけどねえ』
「余計なことを言わないでください」
いやボクも聞こえてたから隠しても意味ないですけどね?
とりあえず魔女さんの削除は保留になりました。一安心だ。でもそのためか分からないけど、魔女さんには恩人を見るような目で見られるようになってしまった。
「ありがとう、リオン様……!」
「いや、うん……。むしろアスティが申し訳ない」
なんかこいつのやらかしはボクのせいだと思えてしまうよ。事実そうだから困る。
でも。魔女さんがここにいても意味がない、というのも事実なわけで。じゃあどうするか、ということになって、
「じゃあ、リオンさんが引き取ってください」
「ほわい?」
「大丈夫です。魔石いっぱいなので、きっとお金にはなりますよ!」
いや。それはいいけど……。つまりなんだ? こいつも家族にしろってことかな?
『お前も家族になるんだよお!』
『なんかのホラーゲームを思い出したw』
『さすがにあれと一緒にすんのはゲームに失礼だ』
まったくだ。アスティと比べるなんてゲームがかわいそう。
「…………。両親に聞いてみます……」
「ふふふ。お願いします」
怖い。こいつ怖い。絶対通ると分かってる顔だ。ボク、詳しいんだ。詳しくなんてなりたくなかったけどな。
「それでは改めて……。リオンさん! クレハちゃん! バーバラさん! ダンジョンクリア、おめでとうございます!」
アスティの声に、後ろで成り行きを見守っていたクレハちゃんたちがびっくりしていた。
「え、あの、わたしたちも、いいの?」
「何もしてないけれど……」
「もちろんです。むしろそうしないと、リオンさんも固辞しそうですし」
「なぜばれたし」
それを理由にして断るふりをしようとは思ったよ。付き合ってくれた二人のためにも。
「ダンジョンクリア報酬ですが……! お願い事、叶えちゃいます。何がいいですか?」
「ボクのは知ってるでしょ。二人が日本で生活できるようにして」
「わっかりましたー!」
クレハちゃんとバーバラさんが驚いたような顔でボクを見る。二人には言ってなかったからね。でも、今更変えるつもりもない。正直、日本のことを教えすぎてるから、放り出すのはかわいそうすぎるし。それに、二人のことは気に入ってるから。
「あ、あの、リオン様……。できれば、あたしも……」
「あ。そうだった。アスティ、魔女さんもね」
「えー」
「おい」
こいつ本当に……。いや、文句を言いながらも、ちゃんとやってくれるみたいだけど。
「それじゃあ、政府を脅して身分を作らせますかー」
「え」
『まって』
『こいつさらっととんでもないことを』
『もうやめて! 首相の胃が死んじゃう!』
『多分もうすでに穴が空いてるんじゃないかな……』
ボクもそう思う。なんというか、本当に、申し訳ない。
「それでは、クレハちゃんは何かありますか?」
「え。あの、えっと……。ごめんなさい、考えてなかったです……」
「では保留で。決まったら教えてください」
あ、そんなのでいいんだ。軽い。いやボクはもうお願いしたから関係ないけど。
「バーバラさんは?」
「魔法を教えてほしいわね。魔法の研究を、もっと……」
「では保留で。魔法についてはあの穀潰しに聞いてください」
「扱いがひどい」
いや確かに、魔女さんは穀潰しになる予定だけどさあ! 今のところ完全に予定のない人だけどさあ! 穀潰しはひどいと思います!
「穀潰し……」
ほら魔女さんも落ち込んじゃってるし! 言葉を選べクソ女神! いや今更だろうけど!
「まあ、はい。こんぐらっちぇれーしょん? ということで。ダンジョンクリア、おめでとうございます。ではお家に帰りましょう」
アスティがパチンと指を鳴らすと、ボクたちは元の場所、つまりボクの部屋に転移していた。見慣れた我が家だ、落ち着くね。
ダンジョンクリア……。本当に実感がない。こんなのでよかったのかな。
「さて、リオンさん」
「うん?」
「次はどのダンジョンに行きましょうか!」
「え」
「え」
『え』
アスティ以外の全員がぽかんとしてるよ。アスティはどうしてそんな反応、みたいな感じで首を傾げてるよ。なんで分からないんだこいつ。
「どのダンジョンって……。繋がってるのは、一つだけだよね?」
「いやですねえ。新メンバーも増えたことですし、新しいダンジョンに行くべきでしょう?」
「あ、魔女さんもメンバーに入るんだ……」
それは、いいの? ずるくない? いや女神よりはましかもしれないけど、魔女さんも十層のボスだよ? 聞けばフロストドラゴンとか瞬殺できるぐらいには強いらしいよ? ずるくない?
あ、ボクが引き取ったからですかそうですか。何も言えない……!
「いやそもそも! 他のダンジョンになんてどうやって……!」
「こうやって、です」
パチンとアスティが指を鳴らす。その瞬間、覚えのある大地震が日本を襲った。
「うわあ!?」
地面は揺れているのに何も崩れない、あの不思議な地震。とても嫌な予感が……。
「はい。北海道の洞窟にダンジョンを繋げました。探してくださいね」
「何やってんの!? 本当に何やってんの!?」
『これは……また政府が大混乱に陥るな……』
『ようやく一発目が落ち着いてきたところだったってのに……!』
『こいつマジで人の心ないんか!?』
「あるわけないじゃないですか」
『冷静に返すとかマジで害悪』
こいつ本当にクソだと思う。またダンジョン攻略とか……。
さすがに、もう嫌だと思ったんだけど……。
「がんばろうね、リオンちゃん!」
「六層からは正直役立たずだったものね……。次はちゃんとやるわよ」
「がんばるので見捨てないで……! あたしに任せてくれたらいいから……!」
うちの子たちはやる気まんまんです。ダンジョンジャンキーかお前ら。クレハちゃんまで……!
「さあさあ! 行きますよリオンさん!」
「本当にお前が一番のクソみたいな元凶だなあ……!」
そうして、ボクはまたみんなと一緒に、別のダンジョンに行くことになりましたとさ。
どうやらボクのダンジョン探索は、アスティが飽きるまで続くらしい。まあ、さすがに次からはペースダウンしてくれるみたいだけど……。いつ終わるのやら。
ただ、お国の皆様にはとてもご迷惑をおかけして、本当に申し訳なく思っています。いや本当に。
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