終焉の魔女
朝。白ご飯に焼き魚、豚汁という朝ご飯を美味しくいただいてから、ボクたちは出発することになった。宿の裏口が洞窟に繋がっていて、そこに地下への階段があるらしい。
「また来てくださいにゃー1」
「待ってるにゃー!」
『かわいい』
『飛び跳ねててかわいいなあ!』
ぴょこぴょことびはねる猫たちに見送られて、洞窟に入った。
「で、洞窟には何かモンスターがいたりする?」
「いると思いますか?」
「ですよねー」
どこまでも無意味な層だなここ! アスティの趣味が全面に出てるだけの層だったと思います! アスティの趣味というか、ボクと遊びたいという欲求しか感じなかったけど。
十分ほど洞窟を進むと、地下への階段があった。いつも通り下りていく。
いつも長い階段だったけど、今回はさらに長いと思う。終わりはどこだろう。いやでも、八層に一万メートルの山があったぐらいだし、それぐらい下りても不思議じゃ……。
「面倒ですねえ」
アスティがぱちんと指を鳴らすと、階段の下にいました。
『風情も何もあったもんじゃねえ』
『緊張が少しずつ高まっていくとか思ってたらこれだよ!』
『最後まで平常運転だなクソ女神!』
「そこまで言います!? いつもほど変なことやってないと思うんですけど!」
「いつも変なことやってるって自覚あったんだね」
「はっ……!?」
確信犯かこいつ。ぶっとばしてやろうか。
わりと本気でぶん殴りたい衝動があったけど、もう十層にいるだろうし、先に進もう。何があるのか、それを見てみたいから。
すぐ近くの扉を開ける。そうしてボクたちの視界に入ったのは。
お花畑でした。
「…………。なんでだよ」
『おいリオンツッコミにキレがないぞ』
『もっと元気よくいこうぜ!』
『さあ!』
「はあ……」
『クソデカため息でした』
『気持ちは分かるけどw』
なんなんだろうね。お花畑って。草原エリアの続きかな? 確かに草原エリアには花畑なんてなかったけどさ。
そして、そんな花畑のど真ん中に、それはいた。
真っ赤なローブに真っ赤な髪の魔女。顔立ちはアスティにそっくりだけど、色合いは全然違う。でも絶対にアスティの関係者だと思う。
その魔女は言った。
「よくぞ来られた、勇気ある冒険者よ! あたしがこのダンジョンのダンジョンましゅちゃ……」
「…………」
「…………」
『かんだ』
『かんだな』
『定番ですな』
そのコメントが聞こえていたのか分からないけど、赤い魔女は顔を真っ赤にした。全身真っ赤だね。うるさいわ。
「や、やり直しを……要求します……」
「許す」
「あざます!」
『なんだこのほのぼの空間』
『多分十層ボスなんだろうけど……』
『ボスの姿か? これが……』
まあ、緊迫感があるよりいいんじゃないかな。
改めて、と咳払いをして、赤い魔女は叫んだ。
「よくぞこりゃれた……。…………」
「ええ……」
『悲報、ラスボスさん、名乗りが苦手』
『せめて前より長く言えよ! 短くなってんじゃねえか!』
『これがラスボスかあ……』
ラスボスかどうかはまだ分からないけど、なんかもう、いろいろだめだと思います。
「アスティ。ヘルプ」
「はい。十層のボス、終焉の魔女です。この世界の人間では絶対に勝てないように調整しました」
「なるほど……。いや待って」
なんか、変なことが聞こえた気がする。
『この世界の人間では勝てないように調整だって』
『それは調整とは言わないと思います!』
『この女神、ついにめんどくさくなったか……!』
「違いますよ!?」
でもそうとしか思えないよ。実質的に調整を諦めてるじゃん。この世界の人たちだと勝てないって、それもうだめじゃん。
「大丈夫です! そんな最強の魔女に絶対に勝てる人がいるんです!」
「なんか嫌な予感がするなあ」
「ごーごー!」
うん。つまり、そういうことなんだろうね。
赤い魔女が不敵に笑いながら杖を掲げる。ちなみにその顔がちょっと赤いのはきっと気のせいだと思う。恥ずかしかったんだろうなとは思うけど。
「メテオ!」
赤い魔女叫ぶと、ボクたちの周囲に隕石が降り始めた。もちろん本物の隕石じゃない。大爆発なんてしない。それでも当たれば致命傷。
「わわわ……!」
「これはまずいわね……!」
ボクにはこないんだけど、クレハちゃんとバーバラさんには容赦なく降り注いでる。これは、危ない。
「アスティ。二人に何かあったら、本気で嫌いになるから」
「それは困ります! おまかせあれ!」
「それ卑怯じゃない!?」
魔女が叫んでるけど、これぐらいは許してほしい。
さて。それじゃあ……。
「全力の……!」
おもいきり気合いを入れる! 本気で! 本気で……!
「おもしろい……! きなさい!」
魔女も杖を構えて、魔力をこめて……。
それじゃあ、そいやっと。
「まいなふぁいあー」
適当に力を抜いて言う。そして魔女の体に小さい炎が当たるのと。
「ぐああああ!」
魔女が叫んだのは同時。そして魔女が、あれ? と首を傾げた。
「…………」
「…………」
「ぐ、ぐあああ! これがあたし特攻のすごい炎かー!」
『すさまじいまでの説明口調w』
『これはひどいwww』
ぽてん、と魔女が倒れました。おめでとう、ボクの勝利です。なんだこれ。
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