だだっこめがみさま


 五層。火山エリア。さっきまでの氷の世界と違って、こっちは火の世界だ。

 そんな火山エリアでボクたちは、というよりアスティはお肉を焼いていた。

 適当な岩にさっきのドラゴンのお肉を載せていく。じゅうじゅうとお肉の焼けるいい音と、とても良い香り。何故だか妙にお腹が減ってくる。

 ただやっぱりその香りに釣られて魔物もやってきた。五層の魔物はオーガ。鬼、だね。クレハちゃんが言うには、かなり厳しい相手らしい。

 なおどこかの邪神が鬱陶しげに手を振っただけで爆発四散しました。


『なにこれこわい』

『こうして見ると神様なんやなって』

『気まぐれでこうして殺されるかもしれないと思うと、普通に怖いな』


 そう、だね。それは怖いと思う。でも多分、アスティはしないと思うよ。今回も料理の邪魔をされそうだからつゆ払いしてるだけだろうし。

 あれが料理かは置いといて。


「できました!」


 そうしてアスティがお皿を持ってくる。お皿には、肉厚のステーキ。少し赤身が残る焼き方だけど、肉汁が溢れていてとても美味しそう。さらにすごく良い香りだ。

 正直ドラゴンの肉とか筋張っていて不味そうなんて思ったけど……。こうして見ると、すごく美味しそうだ。

 さっそく食べてみる。アスティに渡されたナイフで切って、フォークでぱくり。


「うわ……。肉汁すごい……あとすごく美味しい……」


 なんだろう。食べた瞬間、お肉のはずなのにとろけていく。それなのに決してくどくなく、さっぱりとした不思議な味だ。これがドラゴンステーキ。すごい。

 香辛料とかつけてないはずなのに、濃厚な味わいがある。すごいお肉だね。


「わ……美味しい……」

「ドラゴンってこんなに美味しかったのね……」


 クレハちゃんたちも驚いてる。ドラゴンは食べたことがなかったらしい。そもそも解体が難しいらしいから、こんなダンジョンで倒しても諦めるしかなかったのかも。


「英気を養ったところで!」

「うん?」

「スキー! しましょう!」

「明日ね」

「えー!?」


 えー、じゃないが。時間考えろ。もう夕方の五時だよ。そろそろ帰らないと晩ご飯に遅れてしまう。母さんは怖いんだ。


「いーやーでーすー! スキーやりましょうよ! スキー!」

「だだっ子かお前は! ええい離せアスティ! ボクは帰るんだー!」

「かーえーしーまーせーんー!」


『リオンちゃんの腰にひっついてずるずる引きずられていく女神様』

『これが……神の姿か……?』

『子供の我が儘の方がかわいげがあるぞ』

『いい年した女が引きずられてるだけだからな』


 恥だと思え! わりとマジで!

 助けを求めてクレハちゃんたちを探すと、てきぱきと後片付けをしていた。アスティについては触れることすらしてくれないらしい。

 いや、いいんだ。分かってる。触らぬ神になんとやらだ。文字通りの意味で。


「アスティ」

「はい!」

「よく考えてほしい。このままスキーをすると、ボクは常に時間を気にすることになる。本当に楽しく遊べると思うの?」

「……っ!」


 はっとしたようなアスティの顔。なるほどと頷いて、アスティは立ち上がった。そう、自分の足で立ち上がったのだ!


「立った! アスティが立った!」


『感動シーンだなあ』

『感動しすぎて涙が止まらないよ』

『ごめんちょっと涙流せないわ、目薬切らしてる』


 余計なことは言わなくていいんだよ。

 とりあえずアスティも納得してくれたところで、自宅に帰ることになった。これで一安心……。


「それならせっかくなので、明日はうんと楽しめるようにしましょう……。腕が鳴りますよ……!」

「…………」


 なんか、絶対ろくなこと考えてないよね、こいつ。

 思わずため息をついてしまったボクは悪くないと思う。




 翌日。アスティが一晩でやってくれました。


「なんか家が建ってる……!?」


 急かすアスティに連れられて、お昼前にダンジョンに転移。アスティの転移なので四層に一直線だ。そうして転移した先、雪原にはログハウスがででんと建っていた。

 アスティを見る。ぐっと笑顔でサムズアップされた。ボクも笑顔で中指を立てておいた。


「なんでですか!?」

「理由が分からないなら所詮はその程度だよアスティ。悔い改めて」

「スキーを堪能して、暖かい部屋で休憩する……! 何が悪いんですか!」

「場所」


『場所だわな』

『それ以外の何があるというのか』


 そんなぐぬぬみたいな悔しそうな顔をされても困る。これ以上言うことがない。

 でもまあ、せっかく来たんだし、スキーは楽しむとしよう。


「あの、この建物、他の探索者に見られませんか?」


 そう聞いたのはクレハちゃん。確かにいきなりこんな家が建てられたら探索者の人が見に来るかもしれない。四層に来る人は少なくても、それはゼロというわけじゃないから。


「大丈夫です、ここはダンジョンに繋がっていない部屋なので!」

「は?」


 何意味不明なこと言ってんだこいつ。

 ちゃんと聞いてみると。ここは雪原エリアに見えるけど、雪原エリアからはしっかりと壁で隔離されてる場所らしい。山一つ分をプライベートエリアとして確保したのだとか。


「プライベートビーチならぬプライベートダンジョンってか」

「すごいでしょう!?」

「すごいけど嬉しいわけじゃない」

「あれー?」


 あれ? じゃないよ。むしろどうするんだよここ。ボクたちが来なかったら完全放置のエリアってことでしょ。めちゃくちゃじゃん。


「大丈夫です! 保護魔法でいつでも新品! すごい!」

「やりたい放題か」


 やりたい放題だったわ最初から。

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