どらごんはきょうてきでしたね

 ひとまずずギルドに戻って人を探そう、と三人で決めたけど、その空気を読んでくれないバカが一人いた。

 もちろん、アスティだ。


「まあまあ、そう言わずに」


 そうしてアスティの転移で飛ばされた先は、雪と氷に覆われた広い洞窟。その中央にいるのは、氷のドラゴン。大きさは、日本の一般的な民家ぐらい。

 なるほど、ゲームのイメージにあるドラゴンよりは小さい、とかそんなことを現実逃避気味に考えた。


「アスティ」

「はい」

「なんか目の前にドラゴンいるんだけど」

「いますね」

「ここどこ?」

「第四層ボス部屋です!」

「…………」


 こいつマジでぶち殺したい。


『リオンがわなわな震えてるw』

『誰だって怒る。俺だって怒る』

『クレハちゃんとバーバラさんが口をあんぐり開けていて……かわいいなって』

『お前ちょっとおかしいわ』


 どうしよう。引き返せば、いいかな? そうすれば、ボス部屋の外に……。

 逃走の計画を立てている間に、それは起こった。


「ドラゴンステーキだー!」


 アスティが剣を振る。さすがに気付いたフロストドラゴンが首を上げたところで、その首はいとも簡単に落とされてしまった。


「…………」


 呆然とするボクたちの目の前で倒れていくフロストドラゴン。そんなドラゴンを前に、アスティはそれはもう楽しそうにはしゃいでいた。


「ドラゴンゲットです! リオンさん、ドラゴンのお肉はすっごく美味しいんですよ! 期待してくださいね!」

「…………。はい……」


『リオンちゃんの目が死んだ!』

『この人でなし!』

『人じゃないから間違ってないのでは?』

『それは言わないお約束』

『ていうかさ。ちょっと思ったんだけど女神様って……』


 うん。多分、ボクも同じことを考えた。

 アスティを見る。いつの間にかドラゴンの死体の側にいて、ものすごく楽しそうに解体していた。


「あいつ、ボクにまともに攻略させるつもりないのでは……?」


 アスティはずっと言っていた。遊ぶことが目的だと。ボクの希望でダンジョンは作ったし配信もさせてもらってるけど、それは全て一緒に遊ぶためなんだと思う。

 今日もスキーをやりたそうにしてたし……。多分、そうなんだろうなあ。


「ところでクレハちゃん」

「…………」

「魂が……抜けてる……」


『いや草』

『バーバラさんも心ここにあらずだなw』

『これはひどいwww』


 これも全てアスティっていうクソ女神が悪いんだ……。


「クレハちゃん!」


 ボクが叫ぶと、クレハちゃんははっと我に返ってボクを見た。次にドラゴンを解体しているアスティを見て、一言。


「夢じゃないんだ……」

「う、うん……」


『なんだろう、この哀愁が漂う雰囲気』

『苦戦したらしいドラゴンが一瞬だったからなあ』


 ボクですらひどいと思うからね……。


「えと。それで、なに? リオンちゃん」

「うん。ドラゴンってあんなに柔らかいの?」

「え?」


 二人で解体中のアスティを見る。大きな剣ですぱすぱ斬ってる。それはもう、簡単に。


「少なくともわたしは解体なんて考えられなかったかな……」

「あははははははは!」

「…………」


 高笑いするアスティ。クレハちゃんと二人で視線を交わし、大きなため息をついた。なんかもう、いろいろと本当に怖い。


『ヒェッ』

『信じられるか? あれって、女神様なんだぜ』

『嘘だ!!!』

『本当なんだよなあ』

『絶対魔王とかの方がかわいげあるぞあれ』


 全面的に同意するよ。

 そうして、少しして。アスティが戻ってきた。ドラゴンの死体はどこにもない。多分、アスティがアイテムボックスみたいなやつにしまったんだと思う。


「本当はスキーの後のご馳走にしようと思っていたんですけど……。二人とも気になってるみたいですからね! 早速ドラゴンステーキを食べちゃいましょう!」

「いや気になってるのはアスティの奇行だけど」

「奇行!?」


『まさか自覚がないので……?』

『誰がどう見ても奇行でした女神様』

『とても楽しそうでしたね女神様』


「女神様って言ってくれてるのに邪神扱いより距離を感じる……!?」


 いやだって、ねえ? ボクだって距離を取りたいぐらいだから。

 アスティが、助けを求めるように、というより期待の眼差しでクレハちゃんに視線を向けて。その視線を受けてクレハちゃんは、何も言わずにそっと視線を逸らした。


「…………。お肉、焼いてきます……」


 さすがにショックを受けたらしい。アスティがしょんぼりと部屋の中央に向かう。

 とりあえず言っておいた。


「慰めないから」

「えー!?」


『本気で落ち込んでるように見えたら、おいwww』

『やっぱだめだなこの邪神』

『どうしてこうなるまで放っておいたんですか!』


「ボクが聞きたいよ」


 ボクは大きなため息をついて、歩き始めた。

 アスティが手招きしてるからね。とりあえずは、五層を見に行こう。

 ちなみにバーバラさんはクレハちゃんが正気に戻していたけど、やっぱり何とも言えない表情だった。

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