許可が取れないのなら事後報告すればいいじゃない


 翌日、お昼過ぎ。ボクたちはダンジョンの雪原エリアにたどり着いた。

 たどり着いた瞬間、アスティが叫んだ。


「スキーだー!」

「いや、ダンジョン攻略は!?」

「スノボーだー!」

「聞けこら!」

「雪合戦にかまくらになにやりましょう!?」

「お前はここに何しに来てるんだ」

「遊びにですが」

「でしょうね!?」


『むしろその女神様のそれ以外の目的はあるのだろうか』

『常にリオンと遊びに来てると思ってるぞ絶対』


 そうだよねアスティにとってはいつも遊びに来てる感覚なんだろうね! 分かってたさ!

 クレハちゃんとバーバラさんもそんなアスティに慣れてきたのか、苦笑するだけだ。二人ともしっかりと装備を調えてる。着ているものも防寒着じゃなくて、普段の装備にバーバラさんが防寒の魔法をかけてる状態。以前聞いたやつ、だね。


「ほら、アスティ。まずはダンジョン攻略だ」

「えー……。まあいいですけど……」


 かなり不満そうだけど、とりあえずはアスティも頷いてくれた。


「クレハちゃん。ここの魔物はどんなやつ?」

「オークだよ。大きな歩く豚。動きは遅いけど、力が強くて防御力も高い。わたしも、ちょっと苦戦するかも……」

「へえ……」


 クレハちゃんは四階層までは攻略した経験があるらしい。ただこの階層はバーバラさんとの二人で攻略したわけじゃなくて、他の探索者さんも含めた十人でボスを倒したそうだ。


「ボスは、やっぱり大きいオーク? オークキングとか、そんなやつ?」

「フロストドラゴン。ドラゴンだよ」

「え。…………。え」


『ふぁーwww』

『いきなりドラゴンとかwww バカなの?』

『女神様難易度調整考えて?』


 いきなりドラゴンはびっくりだよ。なんで? 前のエリアのボスは、サイズこそ大きかったものの亀だったのに。いやもしかして、その亀も戦ったら強かったのかな。アスティがぶった切ったから分からないんだよね。


「強いの?」

「うん……。すごく強い」

「正直、私とクレハ、リオンちゃんの三人だと厳しいかもしれないわね」


 いや待って、それかなりの強敵では?

 アスティを見る。にっこりと微笑まれた。


「通常よりサイズの小さいフロストドラゴンです!」

「サイズが小さければいいとか思ってないかお前」

「あれー?」


『あれーじゃないが』

『そんなかわいらしく小首を傾げてみせたところで、邪悪しか感じねえよ』

『これ絶対いきなり強くなってるだろw』


 ボクもそう思う。クレハちゃんたちもそれは思ってるみたいで、なんとも言えない表情で頷いてる。亀よりもずっと強いらしい。


「加えて道中のオークもかなり強いのよ。ボス部屋周辺にいるハイオークなんかダンジョンの外にいるオーガよりも強いわ」


 そのオーガがどれぐらい強いかボクには分からないけど……。言い方からかなりのものだというのはなんとなく分かった。

 これは、大変そうだ。


「気をつけて進まないといけないね。急がず、ゆっくり進もう」

「うん」

「そうね」


 別に急ぐ攻略じゃないんだ。まだまだダンジョンは長いんだし、気長に行こう。




 オークは本当に歩く豚だった。サイズも大きく、攻撃力も防御力も高い。魔法はよく通るから、クレハちゃんが引きつけてくれてる間にボクが仕留める、いつものパターンになってる。


『いつも通りすぎてつまんね』

『もっとこう、ピンチとかないんですか!?』

『ぐへへな展開は!?』


「あってたまるか!」


 こいつらは何を考えてるんだ。人の不幸は蜜の味とか言いたいのかな。

 今のところ、ボクたちは順調だ。オークは確かに強いけど、ボクの魔法一発で仕留めることができてる。

 これも魔法に集中できるからこそだろうから、クレハちゃんに感謝だ。そんなクレハちゃんはずっと危険な場所にいるから、申し訳ない気持ちも強いけど。

 ボクも前衛ができたらいいんだけど……。いや、無理かな。普通に怖いから。

 そうして、オークを倒しながら進んで、夕方近く。ボクたちはボス部屋にたどり着いた。

 たどり着いてしまった。


「いや、いくならんでも早すぎない!?」

「こっそり転移しました!」

「何やってんだバカ!」


 こっそり転移しました、じゃないんだよ! なんで勝手に転移してるのかって話なんだよ!


「だって許可を取ろうとしたらだめだって言うでしょ?」

「分かってるならなんでやるんですかねえ!?」


『なるほど、許可を取ったら断られるから事後報告か』

『俺、有給同じようにして取るよ……!』

『そこはちゃんと申請しろよ』

『申請しても却下されるんだよ』

『お、おう。がんばれよ』


 社会人って、怖いね。大変そうだ。

 それはともかく。不本意だけど、ボス部屋についてしまった。クレハちゃんたちは頬を引きつらせてる。さすがに今日、いきなりボス戦だとは思ってなかったと思う。アスティが本当に申し訳ない。


「えっと……。どうしよう。さすがにこのまま進むのは危ない、かな?」

「うん……」

「もう少し、準備が欲しいわね……。助っ人とか」


 道理だね。四層のボスを倒そうとしている人を誘ったりした方がいいかもしれない。

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