魔法使いさんは悪い文化に毒されたようです


 今回のお買い物は普通の服だ。ボクもクレハちゃんもバーバラさんも、以前のお買い物で揃えた服だから、わりと一般人に溶け込んでると思う。

 そのはずなのに、どうしてボクたちは囲われているんだろう?


「リオンさんリオンさん」

「なんですかアスティさん」

「そもそも銀髪のリオンさんが目立ちます」

「誰のせいだ誰の」

「リオンさんの願望、でしょうか」

「ぐうの音も出ないよ」


 いや、うん。知ってる。知ってた。ボクの願望が反映されたって言ってたからね。元凶はボクの願望……。


「その願望を形にした女神様が元凶じゃ……?」

「バーバラさん。しー、です。しー」

「おいこらてめこらふざけんなこら。そうだよそもそもとしてアスティがやらなかったらいいだけのことじゃん。何責任転嫁してるのさ」

「ちっ」

「おい」


 反省の色なしかこいつ。いやこいつに反省なんて求めてないと言えば求めてないけど。だって期待できないから。

 さて。まあ、そういうことで。今日も例のごとくアスティの転移でこのデパートの屋上に来たわけですが、たくさんの人に囲まれました。どうすんのこれ。


「わあ、リオンちゃん本当に綺麗な銀髪! かわいい!」

「ど、どうも……」

「クレハちゃーん! こっち見てこっち!」

「え、えと、その……」

「バーバラさんえろい!」

「直球ね……」

「アスティは悔い改めて」

「私の扱いだけひどくないですか!?」


 視聴者さんだけじゃなくて一般の人にもちゃんと広まってるのはとてもいいことだと思います。アスティはこれに懲りたらまともになるべき。無理か。知ってる。


「そろそろ買い物に行きたいんだけど……」

「はーい」

「気をつけてね!」


 わりとあっさりと解散してくれた。何かな。訓練でもしてるのかな。むしろアスティが何かやったのかもしれないけど……。そんなことはないと信じたいところ。


「これで買い物に行けますね?」


 にっこり笑ってるアスティが不気味でした。

 でもそれはその通りなので、早速買い物だ。まず真っ先に向かったのは、防寒着のコーナー。まだ明らかに早すぎるんだけど、このデパートは夏や冬の服を年中置いてくれてる。旅行客のために、なのかも。


「ふふふ……。さてさて、リオンさん……」

「クレハ? 分かってるわね?」


 知ってる。今日のボクはまたお人形だ。着せ替え人形ってやつ。はは。笑えるね。

 でも今日は道連れがいる。若干引きつった顔のクレハちゃんだ。二人なら、辛さも二等分だね!

 はい嘘です虚勢ですぶっちゃけ大差ありません。

 わきわきと。両手を気持ち悪く動かしながら近づくアスティとバーバラさん。それを見て、ボクは心を無にすることに決めた。

 なあに、時間は勝手に流れていくさ。




「はっ!」


 気が付けば。ボクの目の前には大きな紙袋が四つ、テーブルの上に載っていた。隣にはぐったりしたクレハちゃん。向かい側にはアスティとバーバラさんだ。

 ここは……デパートのファミレスの中、かな? なるほど、乗り切れたらしい。


「クレハちゃん、おつかれ」

「リオンちゃんは……あんまり疲れてないみたいだね……?」

「無の境地ってやつさ」

「なにそれすごい……」


 何も考えてないだけともいう。

 ぐったりしていたクレハちゃんだったけど、メニュー表を見るとすぐに表情が明るくなった。クレハちゃんの楽しみはこっちだったからね。疲れた心を是非とも癒やしてほしい。

 さて。ボクは紙袋の中を見てみる。なるほど、もこもこセーターとかその辺りだ。ダンジョンの装備とは思えない服装だけど、それはいい。良くはないけど、期待してもいないから。

 そんなことより、向かい側。椅子の上でアスティとバーバラさんが正座していた。


「なに、どうしたの二人とも」

「クレハちゃんに……マジギレで怒られました……」

「クレハって、怒るとあんなに怖いのね……」

「え……?」


 なにそれ。すごく気になる。この二人が恐怖を抱くって、よっぽどでは?


「あの……クレハちゃん……」

「なに?」


 にっこり笑顔。謎の圧を感じます。よし、触れないでおこう。


「注文、決まった?」

「うん。これと、これ」


 クレハちゃんが選んだのは、肉厚ステーキと苺のパフェ。なんだかとてもワイルドだ。探索者は体力が資本、だからかな?

 バーバラさんは肉厚ハンバーグを選んでいたから、探索者はお肉が好みなのかも。

 ボクは……海鮮チーズドリア、かな……。


「アスティは?」

「リオンさんの笑顔をおかずにご飯を食べます」

「は?」

「いえすみません冗談ですナポリタンでお願いします」


 こいつは隙あらば変態発言をしてない? 本当に少しは自重した方がいいよ。

 とりあえず注文。少し待つと、料理が運ばれてきた。


「わあ……」


 じゅうじゅうと音を立てるステーキ。この音だけで美味しそうだと思える。クレハちゃんは早速ナイフとフォークを手に取って、ぱくりと口に入れた。


「んー……!」


 おお……。すごく美味しそうな笑顔。こうしていると、普通の女の子だね。


「お肉はやっぱりいいわね」


 バーバラさんも美味しそうに食べてる。ボクも食べよう。

 スプーンでひとすくい。とろりとしたチーズの食感が最高だ。濃厚なチーズに海鮮の食感と味がマッチしてる。素晴らしい。


「リオンちゃん」

「うん?」

「はい、あーん」


 振り向くと、クレハちゃんがステーキを一切れ、こっちに差し出してきていた。ちょっと迷いながらも、せっかくなので食べさせてもらう。おお、肉汁たっぷりで美味しい。


「じゃあ、こっちも。はい」

「うん」


 ボクが差し出したドリアをぱくりと食べるクレハちゃん。美味しそうに微笑んでる。お口に合ってよかったよかった。


「はあ……。最高では?」

「これが……てえてえなの……?」


 お前ら二人はちょっと黙れっていうか、バーバラさんはこの世界に毒されすぎだよ。

 しっかりと食事を楽しんで、ボクの部屋に転移で帰った。クレハちゃんが楽しそうにしていたから、終わりよければすべて良し、ということにしておこう。




・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・

(あとがき)

ストックが尽きてきたので、本日より隔日更新となります。

次回更新は8日です。

  • Xで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

新規登録で充実の読書を

マイページ
読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
フォローしたユーザーの活動を追える
通知
小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
閲覧履歴
以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
新規ユーザー登録無料

アカウントをお持ちの方はログイン

カクヨムで可能な読書体験をくわしく知る