出落ち亀さん

「なんか綺麗な玉!」

「クレハちゃん、さすがにもうちょっと何かない?」

「えっと……。水晶玉……?」

「まあそんな感じだけど」


 正直何に使うのか価値があるのかも分からない。これはさすがに売却かな。


「はーい、取得物はこちらへどうぞー。預かりますよー」


 そしてアスティは宝箱から出たものを受け取って、どこかにしまってる。空中がにゅるんと動いて、うにょんとアイテムを入れて、そして消える。なんだこれ。


『お前の例えの方がなんだこれなんだが』

『アイテムボックスみたいなものかな?』

『女神は荷物係だった……?』


「はい! 荷物係です!」

「認めるなバカ」


 そこはちゃんと否定した方がいいと思う。

 そうして、鍾乳洞の突き当たり。大きな鉄の扉があった。ここがボス部屋ってことかな?


「ボスは同じ?」

「同じボス部屋にたどり着きます。ボスは大きな亀です」

「亀……」


 なんとなく。素早さが低くて防御力が高い、というイメージがある。実際のところは分からないけど。

 というわけでクレハちゃんに聞いてみたら、概ね正しいとのことだった。


「首が弱点だから、いかに首を出させるかが大事なんだよ」

「へえ……。甲羅を攻撃しまくって、怒らせるとか?」

「そんな感じ」


 なんというか、すごく単純。とりあえず攻撃しまくればいいかな?

 というわけで、いざボス戦。がんばろう。

 扉を開けて、そして。


「はーい。お邪魔虫は退場でーす」


 大きな亀さんが真っ二つになりました。

 首を落とした、とかじゃない。甲羅のど真ん中から真っ二つだ。すぷらった!

 下手人は当然のようにアスティ。剣についた血をはらってご満悦。


「アスティ! このバカ! ほんとバカ!」

「え? だめでした?」

「二回目なんだが!?」


『反省の色なしで笑うしかねえ』

『すぷらっただあああ!』

『なんで配信止まらないの? すぷらったはだめなはずじゃ』

『ヒント、アスティ』

『なるほど』


 それはヒントと言わないよ。そもそもアスティが原因かも分からないけど……。まあ多分アスティだろうね。そしてそれは今はどうでもいい。


「ねえアスティ。頭ある? 大丈夫?」

「言い訳をさせてください」

「認める。どうぞ」


『そこは認めるのかw』

『重要な理由かもしれないしな!』

『重要(女神基準)』

『くだらない内容だな!』


「くだらなくないですが!?」


 そう思うなら早く説明しなさい。はよはよ。

 ボクが視線で先を促すと、アスティは胸を張って言った。


「だって遊ぶ時間が減るじゃないですか!」

「ギルティ」

「即答!?」


『妥当だよ女神様』

『むしろなぜ許されると思ったのか』

『いや待て。女神様、それはつまり、海で遊ぶということか!?』


「もちろんです」


『許した』

『認める!』

『水着回だあああ!』


「勝手に許すな認めるな! 遊ばないからなボクは!」

「え」


 そのえは、ボクでもアスティでもなく。

 振り返る。クレハちゃんが気まずそうに視線を逸らした。


「…………」

「…………」

「よし遊ぼう!」


『おいwww』

『クレハちゃんに甘すぎるだろお前w』

『謝って! 女神様に謝って!』


 それだけは断固として拒否だ。絶対に調子になるからね。

 ともかく。せっかくボスを倒したんだから、まずは四層に向かう。ギルドカードで転移できるように。それからまた三層に戻ったら、海辺ですぐに遊べるんじゃないかな。


「四層はどんな場所?」


 クレハちゃんに聞くと、なんとも言えない複雑な表情になった。


「海で遊ぶ気がなくなっちゃうかな……」

「え」


『めちゃくちゃ暑いかめちゃくちゃ寒いか、かな?』

『暑いならむしろ海で遊びたくなるだろ』

『つまり』


 そういうこと、だろうね。

 長い階段を下りて、階段の洞窟を出る。そうしてそこに広がっていたのは、見渡す限りの雪原だった。なんというか、もう、予想通りだね。

 そして当然のように。


「さっむい!」


 クソ寒い。なにこれ。日本の真冬でもここまで寒くならないと思う。肌が痛いとかそういうレベル。これは確かに海に入ろうとは思えなくなるかな……!


「雪原エリアです! 見てください、いい坂道になっているでしょう? スキーしましょうスキー! スノボーでもいいですよ!」

「ついにこいつ私利私欲を前面に出してきやがった……!」


『前からだよ諦めろ』

『やったねスキーで遊べるよ!』

『でもせめてもうちょっと温度を安定させろとw』


 ほんとそれ。夏のようなエリアからいきなり冬のようなエリアって、なめてんのかと言いたい。

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