入り口経由の帰宅


 ダンジョンから出ると、自衛隊の人が待ち構えていた。ボクを、というわけじゃないみたいで、ダンジョンから出てきた人を案内してるみたい。

 入ってきた時とは違う道を歩いて、洞窟の外に。そうして案内されたのは、小さなプレハブ小屋。ここでダンジョンで手に入れたものを渡すことになる、らしい。

 これがかなり念入りで、男性には男性の、女性には女性の自衛官がついて、きっちりと身体検査までされるみたいだった。徹底的、だね。変な道具が持ち出されないようにするためだとは思うけど。

 でも、ボクたちは自主申告だった。すごい特別扱いだ。いいのかな。


「いいの?」

「配信で見ていましたから……」

「…………」


 自主申告も何も何を手に入れたかは全部配信してたね……。

 ダンジョンで手に入れた魔石を全部渡す。今のところは重さを量って金額を決めるみたい。どの魔石がいいかはまだまだ分からないだろうから仕方ない。

 そうしてボクたちがもらったのは、合計で三十万ほどだった。すごく多い気がするけど、本来は命の危険まである場所だと考えたら……どうなんだろう? 分からない。

 自衛隊の人たちに見送られて、アスティの転移で帰宅。場所はもちろんボクの部屋だ。


「はい、お疲れ様でした。クレハちゃんもバーバラさんも静かだったね」

「うん……。ちょっと緊張しちゃって……」

「あの銃っていう武器は、とてもすごいのでしょう?」

「あー……」


 ダンジョンから出た時の方が自衛隊の人たちが多かったから、気になったのかな。


『異世界の人からしてもやっぱり銃はすごいの?』

『魔法の方がすごいように思えちゃうけど……』


「それ、よく知らないから魔法がすごいと思えるだけよ。何の詠唱もなくすぐに攻撃できる銃の方がすごいと私は思うわね」


『なるほどなあ』


 それはそうかもしれないけど……。でも、魔法は大きな道具とかなくても、広範囲を攻撃できてしまうものもあるだろうし、どっちがすごいんだろうね。

 どっちも危ないと言えばそれまでだけど。


「リオンさんは気にしなくてもいいですよー? 銃が欲しければ私が作っちゃいます。魔法が欲しいならとびきりの魔法を教えましょう! どれがいいですか!?」

「のーせんきゅー」

「なんで!?」


 言わなきゃわからんのかこの女神は。銃なんてこの日本じゃ法律違反だし、魔法の知識なんてここで得ても危険人物扱いになるだけだよ。嫌すぎる。


「いや、今でもアスティのせいでボクは危険人物なのでは?」


『気付かれてしまいましたか』

『リアルでリオンを見つけても、まともな人なら近づこうとも思わないだろうよ』

『何が女神の逆鱗になるかわからんからな』

『ほんそれ』


 まあ、うん。仕方ない。ボクだってみんなの立場ならそうしただろうし。

 さてと。それでは。


「アスティ。お金いる?」

「リオンさんなら欲しいです」

「うん。じゃあお金はボクとクレハちゃんとバーバラさんで分けるから」

「スルーされた……!?」


『なるほどスルーが正解か』

『相手しても喜ばせるだけだろうし』

『改めて思うけどこの駄目神厄介すぎるだろ』

『今更なんだよなあ』


 厄介なのは最初からだよ。いろんな意味で。

 さて。それじゃあ、改めて、お金の分配だ。


「はい。それじゃあ、二人とも。十万ずつどうぞ」

「えっと……。ありがとう?」


 一万円札を十枚ずつ、二人に渡したんだけど……。二人とも、不思議そうに紙を見てる。テレビで紙幣のことは知ってるはずなんだけど……。


「えっと……。どうしたの?」

「正直、この紙がお金というのが実感持てなくて……」

「あっちには紙幣ってないの?」

「銅貨や銀貨で取り引きされてるわね」


 そっか、ないんだ。正直アスティなら、あっちも日本円とかしそうだと思ったんだけど……。

 アスティを見る。にっこりと微笑まれた。


「だってお金まで日本円だと異世界っぽくないじゃないですか」

「…………。納得してしまった自分が悔しい……!」

「ええ……」


 言いたいことはとても分かる。正直お金まで日本円だったら、本当に異世界かってまた疑ったと思うから。日本のよくできたレジャー施設とか疑ったかもしれない。

 でもさ、言わせてほしい。


「日本語が通じる時点で今更なんだよ……!」

「言葉まで通じなかったら不便じゃないですか!」

「そうだけど! そうだけど……!」


『よくよく考えなくても謎な世界になってるよね』

『日本語はあるのに日本はない、忍者だっている、でもお金は独自』

『不思議世界すぎるだろ』


 気にしたら負け、なのかもしれないけど……。やっぱり気になるよ。


「ともかく。初めての日本での収入だよ。好きなことに使ってね」


 ボクがそう言うと、二人は神妙な表情で頷いた。なんだかちょっと不安になる顔だけど……。大丈夫だと信じたい。

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