牙を剥く写真集
さて。それじゃあ、帰還だ。帰る時もとても簡単、ギルドカードの一層の表示をタッチすれば一層目の入口に戻してもらえる。あとは階段を上るだけ。
「どうしてこの気遣いができるのに、あの入口はああだったの……」
「あはは……」
クレハちゃんは苦笑いしてるけど、かばったりはしないみたい。それが答え、だね。
ギルドに戻って、受付に報告。すでに試されていた言葉だったらどうしようと思ったけど、開けゴマなんて誰も言ったことがなかったらしい。
そこから先は、ちょっとした騒ぎになった。騒ぎといっても、ギルドの事務内だけだけど。
「そんな隠し通路があるなんて……! 今すぐ他の探索者に伝えて確認を……!」
「よせやめろ! まずは発見者の意向を確認するんだ!」
「そうでした……!」
そんなやり取りが目の前で行われてる。普段と違う様子に周りの探索者がこっちをちらちらと見てるけど、ギルドの人は小声で話をしてくれてるから聞こえていないと思う。
「えっと……。ボクとしては別にみんなに知らせてもらっても……もが」
「ごめんなさい、一週間だけでいいので、ここだけの話にしておいてもらえる?」
ボクの口を塞いでバーバラさんがそう言った。どうしてかな。さっさと話してしまっていいと思うけど。
「リオンちゃん。新発見の隠し通路なんて、みんなが調べたいに決まっているのよ。そうなると、しばらくその通路にはたくさんの探索者が押し寄せるわ。今までみたいな探索はできないわよ」
「あー……」
ダンジョンそのものが広いだけに他の探索者とは会わなかったけど、確かに隠し通路に大勢集まったら、今まで通りにはいかないかもしれない。人であふれかえったりするのかな。
「それに」
「それに?」
「未知の場所! 手つかずの宝箱もあるはずよ……!」
「それが本音か!」
『正直な人だなw』
『でも探索者にとっては重要なのでは』
『大きな収入源だろうしな』
それは、そうだね。いいものがたくさん手には入ったら、お金にもなるだろうし……。バーバラさんの気持ちも分からないでもない。お金は大事だ。
「それでは、一週間後にこの情報を公開させていただきます。その際に皆様に情報料も支払われますので、受け取りにいらしてください」
「了解です」
情報料。新発見の隠し通路だし、いい値段になるかも?
その後はギルドを離れて、路地裏に入って転移してもらう。転移先は、ダンジョンに入って来た時の入口前。青い渦巻きがある場所だ。ここから元の場所に帰れるらしい。
「そういえば……。みんなは徒歩でここまで戻ってきてるの?」
「いえ。ちゃんと対策しておきました。他の皆さんは魔力の扱いと一緒に限定的な転移魔法を覚えて貰ってます」
「え」
聞けば、以前アスティに頼んだ件のことみたい。ボスを倒したら次の層に転移できるようにしてほしい、みたいなやつだね。
その対応で、ダンジョンの入口とダンジョン都市の入口のみに対応した転移魔法を頭に叩き子込まれるようにしたんだとか。ダンジョン都市の方はもちろんボスを倒してからみたいだけど。
なおデメリットも当然あった、らしい。
『めちゃくちゃ痛かった』
『ぶっちゃけ死ぬかと思った』
『一般人が最初に入る時はかなりしつこくそれを注意されるからな』
「ええ……」
誰も否定しないってことは、本当にそれだけ痛いってことらしい。悪いことしちゃった気分だ。ちょっとだけ、ごめんなさい。
『でも安全に帰れるのはとても大きい』
『そうそう。だからリオンちゃんはお手柄なんだよ!』
『でも悪いと思うなら追加の写真集を出してください』
「出さないが?」
出すわけないでしょうが。お金がたくさん入ったから特別に許しただけで、次はないよ。絶対にない。
そのはずだったんだけど。
「写真集ってなに?」
反応したのはクレハちゃんでした。反応しちゃうのか。
『リオンちゃんの写真を集めた本だよ』
『かわいい服の写真がいっぱい!』
『つまりかわいいリオンちゃんがいっぱい!』
「へえ……」
ねえ、どうしてそんなに興味を持ってるのクレハちゃん。どうしてわくわくしてるのクレハちゃん。そんないい笑顔で見つめないでクレハちゃん。
「わたしも見たい。だめ?」
「…………。あい……」
かわいい女の子のお願いには勝てなかったよ……。
「ふふふ……こうしてリオンさんかわいい輪は広がっていくのです……」
「お前はちょっとは反省しろクソ女神」
新規登録で充実の読書を
- マイページ
- 読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
- 小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
- フォローしたユーザーの活動を追える
- 通知
- 小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
- 閲覧履歴
- 以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
アカウントをお持ちの方はログイン
ビューワー設定
文字サイズ
背景色
フォント
組み方向
機能をオンにすると、画面の下部をタップする度に自動的にスクロールして読み進められます。
応援すると応援コメントも書けます