qあwせdrftgyふじこlp
三階層は、海エリアでした。
『海だ!』
『水着だ!』
『水着……タコ……ひらめいた!』
『変態だあああ!』
海、だね。定番と言えば定番だけど……。攻略する側になって思うのは、すごく面倒な場所だなってこと。
ただ、何を求められているのかはなんとなく分かる。
振り返る。二階層と同じで、ここまで下ってきた階段の部屋は天までの岩山になってる。そしてその岩山の周辺は、大きめのちょっとした島だ。もちろんたくさんの木、つまり木材もあるわけで。
ここで船を作ってから探索しろ、ということらしい。
「船を作るスキルとか探索者に求められるんだ……。クソ仕様でしょ」
「うん……。ここで頓挫する人が結構多いよ。敵もすごく強くなるから」
クレハちゃんが言うには、多くの場合は筏を作ってこの広い海原を探索するのだとか。そして敵は凶暴な魚系の魔物で、筏も壊そうとしてくる。面倒にもほどがあるね。
ただその素材はかなりいいものらしくて、そもそもとして魚が美味しい。綺麗に倒せれば、一匹だけで結構な稼ぎになるのだとか。
「だから筏を作れない人とか、あまり戦闘面で自信がない人は、砂浜で魚をおびき寄せて一匹ずつ狩って、それを稼ぎにしてるみたい」
「なるほど……。一匹ずつならそこまででもない、と」
集団で襲われるからやっかいってことかな。
『この辺りが分水嶺ってことかな』
『戦闘力じゃなくて筏のスキルで探索者のランクが決まるのか』
『ゲームならともかく、リアルなダンジョンでこれはクソすぎるw』
「ええ。だからちゃんと救済措置もご用意しました。地下通路を通れば筏がなくてもボス部屋に進めます」
「え」
「え」
「え?」
クレハちゃんとバーバラさんが頭に疑問符を浮かべ、そしてアスティがその反応に首を傾げた。
うん。うん。よし。
「認識されてない救済措置は救済措置とは言わないんだよクソ女神」
「ままま待ってください! 冗談ですよね!? ね!?」
「少なくとも私たちは、地下通路の存在なんて聞いたこともないわね」
「そんな……!?」
もちろん誰にも情報を与えずに利用してる人はいるかもしれないらしいけど……。それにしても、その存在すら誰も語っていないというのはあまり考えられないらしい。誰かが口を滑らせるはず、らしいから。酔った勢いとかで。
だから。本当に誰も知らないか、もしくは超少人数しか知らないか。そのどちらか、ということ。
『ゲームで言うと、誰も情報を与えてくれない隠し通路ってことかな』
『発売して数年してから発見される裏ルートみたいなw』
『ただのクソゲーじゃねえかwww』
「そんなあ……」
がくりと項垂れるアスティ。これは本当に予想してなかったらしい。気付かれなくても仕方ない場所、なのかな。
「せっかくだから見てみようよ。アスティ、案内」
「はーい……」
意気消沈したアスティを前にして、島を歩いていく。ちなみにこのフロアの魔物は、地下通路以外は魚しかいないらしくて、この島そのものは安全らしい。
だから探索者にとってはちょっとしたリゾート地でもあるのだとか。そういうの、いいよね。
『リオンちゃん! 水着は! 水着はありますか!』
『水着回はよ!』
「うるさいよボクの水着なんか見て何が嬉しいのさ!」
『幼女の水着は最高です』
『バーバラ様の水着も見てみたい』
『あ、邪神様は結構です呪われそうなんで』
「おまえら……!」
「あれ? 私しれっと罵倒されてません?」
アスティのことはどうでもいいけど、こいつらは自分の欲望に忠実すぎないだろうか。いやそういうものだろうけど。
しばらくちょっとした森になってる島を歩いて、やがてそこにたどり着いた。
とてもとても大きな岩。日本の民家ほどもあるその岩は森の中にぽつんとあって、かなり不自然だ。これが目印なら、誰かが地下通路を見つけてもおかしくないだろうけど……。
「壊せばいいの?」
「壊せないよ。みんなやっぱり調べるんだけど、どうやっても何も起きないから……」
あ、本当だ。岩の表面に剣の跡とかがある。誰かが攻撃したってことらしい。
さらにクレハちゃんが言うには、ダンジョンには自動修復みたいなものがあるらしくて、定期的にこの傷跡とかもなくなって綺麗な岩に戻るんだとか。
だからもうほとんどの人はこの岩については諦めたらしい。
「皆さんだらしないですねえ」
やれやれ、とばかりにアスティは首を振って、岩に手を触れた。
そして言った。
「qあwせdrftgyふじこlp」
「……!?」
なん……こいつなんて言った!? 発音がなんかよく分からなかったんだけど! なんだ今の! 今のなに!?
次の瞬間、地響きと共に岩に大きな穴ができた。地下に下りる階段になっていて、ここが地下通路になってるらしい。
クレハちゃんとバーバラさんは唖然としてる。口をもぞもぞ動かしてるからさっきの発音を真似しようとしてるみたいだけど、できるわけがない。
「ね? 簡単でしょ?」
「わかるかあ!」
「あふん!」
『リオン渾身の右ストレートがアスティのボディに炸裂!』
『さすがに痛かったのかうずくまっていてざまあすぎる』
『ひどい! ひどすぎる! この人でなし!』
『どっちが?』
『もちろん邪神だけど』
「な、なんでですか……! 有名じゃないですか!」
アスティがそんなことを言うけど、こいつは本気で言ってるんだろうか。本気なんだろうなあ。バカだし。
「あのね、アスティ。確かにそれは有名だ」
「ですよね!?」
「でもそれ、キーボードを使う人のさらに一部の人しか分からない上に、まともな発音なんて誰も知らないよ。アニメとかでもそれぞれ違うぐらいなのに」
「なん……ですって……!?」
いや、そんなに愕然とすること? まさか本当に誰でも分かると思ってたのかこのクソ女神。そもそもキーボードがないこの世界で分かるわけないだろうに。
両手を突いて落ち込むアスティ。うん。
「かわいそうに見えるけどただのバカです」
「ひどい!」
『当然の評価だよ』
『ぶっちゃけ我々日本人でも思い浮かばないし、思い浮かんだとしても言えねえから』
『やはり神に人の心は分からない、どころか人の構造が分からない』
こればっかりは一つも擁護できない。元から擁護するつもりないだろと言われたらその通り。
「アスティ。何か、合い言葉を変えよう。簡単なものに」
「じゃあ……。開けゴマで……」
「また定番な……。いやいいと思うけど」
この世界の人に通じるか分からないけど、そこはギルドに報告して周知してもらえばいいと思う。それぐらいならしてもいいでしょ。さすがにひどすぎるから。
「私たちの……努力って……」
「筏……がんばったのに……」
なおクレハちゃんたちみたいな探索者の心は癒やせないものとする。やっぱり女神は罪深いね。
「ちなみに中はどうなってるの?」
「鍾乳洞みたいな洞窟で、広い一本道になっています。出てくる魔物はいわゆるサハギンですね。槍と魔法を使う、それなりに強いモンスターです」
筏を作る必要はないし一本道だから道としては単純だけど、その代わりに敵が強い、みたいな感じかな。わりと王道だね。そもそも入場できなかった、という点をのぞいて。
とりあえず。帰ってからギルドに報告、かな……。
「アスティは全力で反省しろ。この他に同じような仕掛けがあるのなら改善しておくように!」
「分かりました! すぐにやります!」
「あるのね……」
バーバラさんの疲れたような小声が全てを物語っていたような気がしました。うちの女神が本当に申し訳ない。
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