お弁当
「もふもふもふもふ……」
『あかんリオンが壊れた』
『もふもふしてみたいけど……。俺らには懐いてくれないんだろうなあ』
『間違い無く女神同行の特権だな!』
『クソクソクソクソ』
このもふもふがボクたちだけ、というのもかわいそうだと思う。もっとみんなで堪能するべき。これは世界の宝。もふもふ。
「アスティ」
「一応、テイムが可能です。攻撃しない限り襲ってこないので、エサとかで信頼を得てください」
「え」
これにはクレハちゃんが絶句した。多分、攻撃しない限り襲ってこない、の部分だと思う。
ちょっと話を聞いてみると、そんな情報は今までなかったらしい。先手必勝が常だったのだとか。
でもそれは責められないかなと思う。むしろ当然かも。だって相手は動きが素早いウルフだ。先手を譲る理由にはならない。むしろ唸られていたら攻撃して当たり前だ。
「これはひどい罠。アスティの性格がよく出てる」
「えへへ……。あれ? 褒められてませんよね、これ」
「褒めてないよ。貶してるんだよ」
「なんでえ!?」
『性格悪いダンジョン設計のせいです』
『でもこれはいい情報』
『俺、まずは二層を目指そうかな』
『なお関門としてゴブリンキングが立ちはだかります』
『あっ……』
まあ、そういうことだね。ウルフは襲ってこないかもしれないけど、ゴブリンは普通に襲ってくるし、ゴブリンキングも強敵だ。
それに、一層からは自己責任……。誰も助けてくれない、とういのも大きいかも。
『それでもやるぞ俺はやるぞ!』
『もふもふが! 俺を待ってるんだ!』
『もふもふ!』
この人たちなら、いつかたどり着けそうな、そんな気はするかな。
「さて、それではお昼ご飯です!」
ウルフの草原を探索中、アスティがそう言った。
「お昼ご飯」
「はい! お弁当、ご用意しました!」
「お弁当」
「はい! リオンさんの好きな甘めの卵焼きも入っています!」
「それは、うん……。ここで?」
「はい!」
『すごいなこの女神』
『一応ダンジョンのど真ん中なのにw』
『敵はいないけどな!』
そうなんだけどね。ウルフたちはみんなお友達さ。ウルフは友達!
「狼が友達ってなんだよ……!」
「落ち着いてリオンちゃん……!」
「気持ちは分かるから!」
いいけどさ! ダメとは言わないけどさ! モンスターが友達って意味分からないんだよばか!
それはともかく、お昼ご飯。
「よしシートを敷こう」
「はい!」
『うわあ急に落ち着くな!』
『様式美。続けてどうぞ』
何やってるんだろうね、こいつらは。
草原にシートを敷いて、その上に座る。ちなみにシートはアスティが出してくれた。用意周到すぎて笑うしかない。
そしてシートに座るボクたちの側にウルフが集まってくる。みんなもふもふだ。わしゃわしゃしてあげよう。わしゃわしゃ。
「あー……。癒やされるぅ……」
『もふもふをもふもふする少女』
『最高かな?』
「アスティから受けるストレスが癒やされるぅ……」
「どういう意味ですか!?」
『草』
『そのままの意味なよ女神様』
むしろストレスがないとでも思ってるのかこの女神様は。いい加減自覚しろよと言いたい。
「くっ……! こうなればウルフたちを攻撃的にして……!」
「その時はアスティを本気で嫌いになるから」
「ごめんなさい!?」
『リオンが強いw』
『一度与えられたものを取り上げられたらキレるよね』
『そもそも女神様が悔い改めればいいと思います』
それは一番無理なやつだと思う。
ともかく。ご飯だ。
お弁当はなんとアスティの手作りらしい。アスティ、つまり女神の手作り。
「神器お弁当」
『どんな神器だw』
『神器(消耗品)』
『一食分な上に保管すると腐る神器w』
確かにそんな神器は嫌かもしれない。
お弁当のメニューは卵焼きにおにぎり、タコさんウィンナーに唐揚げ。ともてシンプルでオーソドックス。変に奇をてらわないだけで十分かな。
しかもちゃんとクレハちゃんたちのものも用意してる。
「やるね、アスティ。もしボクだけの分しかなかったら軽蔑するところだよ」
「セーフっ……! ありがとう奏さん!」
「姉さんの入れ知恵!?」
『やっぱりこいつリオンのことだけしか考えてねえw』
『それでこそ女神様だぜ!』
いつも通りと言えばそうだけどさあ!
ちなみにお弁当はとても美味しかったです。それがちょっと不愉快でした。
「なんで!?」
自分の胸に手を当てて考えろ。
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