もふもふ!


 ゴブリンのボスたちの魔石を回収して、その先にある階段を下りる。階層をまたぐ階段はとても長いみたいで、かなり長い時間下り続けた。何段あるんだこれ。

 そうして階段を下りた先は、小さな部屋。出口が一つだけあって、そこから出ると広い草原だった。アスティに連れられて見てきた六層ととても似てる。

 振り返って階段の方を確認すると、天高くまで細長い岩が延びていた。多分あの中に階段があって、ボクたちはそこを下りてきたんだと思う。そりゃ長いわけだよ。


「ねえ、アスティ。これ、毎回通らないといけないわけ? 探索者の人、大変すぎない?」

「まさかそんな。ギルドでもらったカードに到達階層が自動的に記入されます。ダンジョンに入って行きたい階層に触れると転移します。すごいでしょ?」

「なんだその謎技術」


『異世界特有謎技術』

『文明レベルは現代より低いはずなのに、なぜかカードに関わることは超技術になってるやつ』

『でもどうせどこかの女神が何かやってるんだろうなあ』


 ボクもそう思う。いくら魔法がある世界とはいえ、人間が作れる技術じゃないと思うから。


「これ、そんなにおかしいの?」

「便利よこれ」


 クレハちゃんとバーバラさんは特に疑問を抱いてないけど……。こういうもの、という認識なのかな。この世界にとっての常識、みたいなものかもしれない。ボクたちがパソコンについて詳しく知らなくても使ってるみたいな感じで。

 もしかしたらこのカードも、研究者みたいな人は調べてたりするのかな。どうでもいいか。


「二層目だけど、ここにいるのはウルフ系の魔物になるわ。俊敏に動き回って攻撃してくるから、注意してね」

「ウルフ……。了解です」


 それは、すごく強そう。ボクみたいな後衛だと近づかれたら終わりかもしれない。

 少しだけ緊張していたら、アスティが言った。


「ここはね! もふもふフロアなんですよ! もふもふいっぱいです! 野生動物にありがちなごわごわにならないように調整しました!」

「ん?」


『おや?』

『なんか嫌な予感がしますねえ』

『めちゃくちゃ楽しそうなこと言ってるけど』


 襲ってくる敵に対してもふもふとか言ってられないんだけど。

 そう思いながら進むと、そのウルフが現れた。大きな狼で、秋田犬ぐらいの大きさがある。つまりめちゃくちゃでかい。

 そんな狼が唸りながらゆっくりと近づいてくる。しかも、五匹。なにこれ怖い。


「大丈夫、リオンちゃん。わたしが守るから」

「クレハちゃん……!」


 年下の女の子に守られるっていうのは男として悲しいけど、そうは言ってられないってやつだ!

 …………。男だってば。

 クレハちゃんが前に出る……いや、出ようとしたところで。


「おすわり」


 にっこりとアスティが微笑んで言った。すさまじい威圧感と共に。


「わんっ!」


 ウルフはすぐさまそれに応じた。一斉にその場でおすわり。まさに一糸乱れぬ動きだ。なんだこれ。


「さあリオンさん! 思う存分もふもふしてください!」

「できるかあ!」

「あふんっ」


 思いっきり杖を投げつけてやった。杖はくるくる回ってボクの手元に。ナイスコントロール、ボク。


「アズティ、なにこれ。バトルはどこいったの?」

「いたた……。ここはもふもふフロアなんです。動物好きなリオンさんのためにご用意しました!」

「いや、確かに動物は好き……」

「薄い本にケモミミの……」

「やめろおおおおお!?」


『安定の性癖暴露』

『これもしかして一フロアに一つ性癖が暴露されるのではw』

『リオンの! 心の安定が! 乱れる! ……かも!』


「おもしろがるなあああ!」


 そもそもとしてもふもふとケモミミは違うんだよバカ! こんな、こんなもふもふにボクが屈するわけ……。


「…………。あ、すごくもふもふふわふわ……。きもちいい……」


『ちょwww』

『屈するのが早いw』

『もうちょっと抵抗しろよw』


 いやだって、すごくもふもふだよ。やわらかだよ。これはくせになる。癒やしだね。


「いいですか、ウルフども。この方がリオンさんです。覚えましたね? 手を出したらいけませんからね?」

「わんっ!」

「何を教え込んでるんだよ……」


 ダンジョン攻略って、なんだっけ?


「そこのお二人もどうぞ。教え込ませました」

「ええ……」

「これ、次から戦いにくくなるわね……」


 おっかなびっくりといった様子でウルフたちをもふもふし始めるクレハちゃんたち。二人とも最初は警戒してたけど、もふもふしている間に大丈夫だと判断したらしい。すぐにもふもふの虜になっていた。

 さすがもふもふ。もふもふは全てを解決する。もふもふ。

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