ダンジョンの受付
何人が知ってるか分からないけど。
富士の樹海はかなり特殊な場所だ。何が特殊って、地面は溶岩が固まったものでできていて、柔らかい土というわけじゃない。場所にもよるみたいだけど。
そんな場所だから、洞窟は溶岩が固まってできたものが多い。ダンジョンの入口になっているのも、そういう場所だった。
「おー……。なんかいかにもな洞窟!」
『いかにもな洞窟て』
『言いたいことは分かるけど』
『それにしても物々しい』
それは分かる。なんだか厳戒態勢って感じだ。
多分だけど。すごく大変だったと思う。だってアスティ、富士山の麓とは言ってたけど、具体的な場所は言ってなかったからまず探すところから始めただろうし。
見つけてもすでに入っている人がいたかもだし、こうしてしっかり封鎖もしないといけなかっただろうし、アホな人が批判もしただろうし……。
「これも全部アスティのせいだ」
「いきなりなんですか!?」
「少しは反省して?」
「反省することなんてありませんが?」
『うーんこの』
『さすがです女神様!』
『そこに痺れる憧れない!』
気を取り直して、まずは手続き。
洞窟はフェンスで囲まれて、自衛隊の人が等間隔で並んでる。一つだけ入口があって、そこにテーブルとかが置かれていて、入る時に身分証の提示と同意書に署名をしないといけないみたい。
うん。身分証、持ってきてない。クレハちゃんたちはそもそも身分証がない。
「身分証忘れちゃったんだけど」
「あ、大丈夫です。私が学生証を持ってきました」
「は?」
『さらっと何言ってんだこの女神様』
『届けるとかなら分かるけど、無断で持ち出してるのは草なんだ』
いや本当に。それ以前として。
「あのさ。ボク、学生証は財布に入れたはずなんだよね」
「ですね」
「ですねじゃないけど、今はいいや。その、引き出しの中に入れたはず……」
「もう少し薄い本は分かりにくい場所に……」
「やめろおおおおお!」
『草』
『久しぶりのこの流れw』
『実家のような安心感w』
『お前の実家やばすぎる定期』
いやマジでこいついい加減にしろよ! 人の引き出し勝手に見るなよ! いやもう止めても見るだろうけどせめて言うなよ!
いや、というかね!
「リオンちゃん、薄い本ってなに? 面白い本?」
「ち、ちが、あの……」
この場にクレハちゃんがいることだよくそったれ!
『これはひどいwww』
『リオンちゃんを純粋無垢な瞳が襲う!』
『いやクレハちゃん忍者だし、ワンチャンそっちの知識があったり……』
『あったとしても知られてほしくない本だろ』
『それはそう』
くノ一らしく何か、なんだっけ、そういう術を学んでるかもしれないけどさ。多分ボクの趣味とは絶対に被らな……なんでもない。
こほん、と気を取り直して振り返る。クレハちゃんににっこり笑顔。なぜかクレハちゃんが一歩下がった。
「クレハちゃん。そんな本はない。ないんだよ」
「あ、うん……。ごめん……」
『この謎の圧よ』
『ゴブリンを瞬殺するクレハちゃんが地味に怯えてるの草なんだ』
「え? 何言ってるんですかリオンさん。薄い本は……」
「黙れアスティ。マジでぶっ殺すぞ」
「あ、はい。ごめんなさい」
『そしてこのマジギレである』
『これはキレる。俺だってキレる』
『問題は本当に殺すことはできないので脅しにすらならないことである』
『まあキレてることは伝わるからね……』
それだけ伝わればきっと十分。そう信じたい。
改めて。アスティから身分証を受け取って、自衛隊の人に渡す。当然顔写真とは全然違うんだけど、ボクの場合は特例として認めてくれることになった。これはクレハちゃんとバーバラさん、ついでにアスティも同じ。それだけ有名だってことだね。ふざけんな。
同意書は、ダンジョンで得たものは一度自衛隊に渡す、ということ。そして魔石及び危険物は返せない可能性があるけど、その分買い取りはする、とのこと。あとは、死んでしまう可能性があることにも言及されてる。そしてダンジョンの中でのことは自己責任だと。
ちょっと物騒な内容かもしれないけど、妥当なのかな。よく分からない。とりあえずサインだ。
そうしてから、ようやく洞窟の中に入る。しばらくは薄暗い洞窟が続くみたいだけど、明らかに途中で入口だというのが分かった。
いや、ね。なんか、渦巻きみたいなのがあるんだ。青色の、渦潮みたいになってるやつ。これはあれだ。有名なゲームで見るやつ。
『これなんて旅のとb』
『やめろ』
『分かりやすいけど! 分かりやすいけど!』
怒られないか心配になるね。女神を怒れるような人なんていないと思うけど。
「これは……次元が、歪んでる……? 魔力によるもの……だけじゃないわね。とても強い力で引き起こされて……」
「バーバラさんが魔女っぽい!?」
「魔女よ」
『え? 変態では?』
『初めて魔女らしいところを見た気がする』
『変態の魔女……!?』
「リオンちゃん、よくこんな言葉を聞きながら探索しているわね……」
「あっはっは」
すごいでしょ。遠慮も何もないからね、こいつら。でも慣れたら楽しいよ。一緒にわいわい楽しんでる気分。たまに、どころか頻繁にクソな発言もあるけど。
『そういえば今日からクレハちゃんたちにも俺らのコメント聞こえてるんだっけ』
『そうだよ! ならばやるしかない!』
『クレハちゃんをprprpしたい』
『バーバラさんのどこがとは言わないけどうずめたい』
「追放するぞ」
『ごめんなさい!』
『さーせんしたああ!』
普段の配信みたいにすぐに対応はできないけど、ログを調べてあとで追放処分、つまり配信を見れなくすることぐらいはできる。
それがあることを忘れないでほしいね。やるぞボクは。快適な配信ライフのために。
「それじゃ、行こうか」
改めて。渦巻く光の中に入ってみる。
新規登録で充実の読書を
- マイページ
- 読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
- 小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
- フォローしたユーザーの活動を追える
- 通知
- 小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
- 閲覧履歴
- 以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
アカウントをお持ちの方はログイン
ビューワー設定
文字サイズ
背景色
フォント
組み方向
機能をオンにすると、画面の下部をタップする度に自動的にスクロールして読み進められます。
応援すると応援コメントも書けます