ダンジョンの入口


 翌日。四人での、初めてのダンジョンだ。

 バーバラさんもちゃんと来てくれてる。クレハちゃん以上に日本に馴染んで、ボクの姉さんとよく遊んでいたけど、ダンジョンに潜ると聞くとすぐに同行を決めてくれた。

 それじゃあ早速ダンジョンの街へ、と思ったけど……。


「ちょっと、こっちの世界での入口を見てみない?」


 というバーバラさんの言葉で、入口に見にいくことになった。

 別に大した理由はないんだけど……。そういえば、ボクもまだ見てはいなかったなって。ずっとアスティの転移でダンジョンに入ってたから。

 そんなわけで、ダンジョンの入口、富士山の麓に転移で行くことになった。富士の樹海にある洞窟の一つが、ダンジョンの入口になってるらしい。


「今更見に行かなくてもいいと思うんですけどねー」


 自分で作っておいて、入口そのものにアスティは興味がないらしい。アスティの場合は、ボクに関わること以外は興味がない、という方かもしれないけど。意味が分からない。

 まあ、ともかく。アスティの転移で移動だ。

 移動した先は富士の樹海、その入口。樹海にはちゃんとした名前があるらしいけど、ボクは覚えてないから許してほしい。

 さて。そんな樹海の入口だけど……。めちゃくちゃ大勢の人がいました。


「なあにこれえ……」

「わあ……」

「これは……すごいわね……」


 なんだろう。長蛇の列ができてる。ところどころに立て看板があって、ダンジョンはこちら、という文字があった。ということは、この人たち全員がダンジョンに潜るってこと?


「なるほど、日本人は商魂たくましいですね」

「どういうこと?」

「ダンジョンに少し入ってすぐに出る、みたいなツアーができてるみたいですね」


 なにそれ。いや本当になにそれ。そんな軽い気持ちでダンジョンに入ってるの?

 いや、わかってる。入ってすぐのダンジョンなんて、危険はあってないようなものだ。だからみんな気楽に入っちゃうんだろうけど……。

 いつか、大きな事故にならないか、ちょっと不安だ。


「一度ダンジョンの入口を前触れなしで閉じてしまいましょうか。人がたくさん入ってるタイミングを狙って」

「ええ……」

「え、本気のどん引き!? いえ、待ってください冗談です! 冗談ですから!」

「それを思いつくだけで紛う事なき邪神だよ」

「そんな!?」


『それで引かれないと思ってたのならもうちょっと人を理解するべきです邪神様』

『神は人の心が分からない、にも限度があります邪神様』

『吐き気を催す邪悪だな邪神様』


「ひどい!?」


 いやあ、正直今回のはなかなかだったと思うよ。

 言い訳を並び立てるアスティを放置して、ボクたちも列に並ぶために後方に向かう。さすがに割り込みはしたくないから。正直もう転移でダンジョンに入ろうかなと思ったけど、ここまで来たんだしちゃんと入口も見ておきたい。

 だから、今日は最悪並ぶだけで一日を潰すつもりになっていたんだけど。


「あれ? もしかして、リオンちゃん?」


 列の途中の人にそう話しかけられた。


「え? あ、はい。そうです」

「わあ! やっぱり! 配信見てます!」

「あ、えと、どうも……」


 やばい、緊張する。実は視聴者とこうして直接話すのは初めてだ。さすがに初対面の人と話すのは緊張するから避けてたのに……!


「え? リオン? わ、ほんとだ!」

「本当に忍者だ! かわいい!」

「バーバラさんすごく大人っぽい!」


 他の人までこっちに気付いていろいろ話しかけてきた。ボクだけじゃなくて、クレハちゃんやバーバラさんにまで。二人もやっぱり困惑してる。異世界側じゃこんなに注目を集めることなんてなかっただろうし、当たり前か。

 そんな中でアスティだけがちょっと浮いてたけど。


「え? あれ? 私は? 私には何かないんですか?」


 みんなの視線がアスティに向いて、そしてすぐに逸らされてしまった。


「いやあ……。確かにかわいいけど、やってることを知ってるから……」

「変なこと言って呪われたくないし……」

「邪神だし……」

「女神ですが!? 神様ですよ! 何か言ってくださいよリオンさん!」

「みんなが正しく認識してくれていて、ちゃんと配信をしていて良かったなと思いました」

「リオンさん!?」


『草』

『みんなノリいいなあw』

『いいなあ、リオンちゃんが来るなら俺もここに並べばよかった』

『おなじく。どうせ転移で入るだろうからと思って、並ばずに帰っちゃったよ』


 それでいいと思う。全員に会えるわけじゃなないんだから。

 でも、これどうしようか。後ろに行くのもちょっと難しくなってきたけど……。

 そう思っていたら、列の前の方から誰かが走ってくる音が聞こえてきた。そっちに視線を向けてみると、特徴的な服の人たち……自衛隊だった。三人、走ってきてる。

 自衛隊の三人はボクたちの目の前で立ち止まると、びしっと敬礼してくれた。すごくかっこいい。


「リオンさん、ですね?」

「えっと……。はい。ボクがリオンです」

「リオンさんが来られたら最優先で通すように命じられております。どうぞこちらへ」


 そう言って、自衛隊の人たちが先導してくれる。こんな特別扱い、みんな怒るような気がするんだけど……。


「いってらっしゃーい!」

「リオンちゃんがんばって!」

「クレハちゃんも気をつけてなー!」

「バーバラさん、魔法期待してます!」

「邪神は自重しろよー!」

「私だけ扱いがおかしくないですか!?」


 みんな、気にしないでくれるみたい。優しい人たちで良かった。

 お言葉に甘えて、ボクたちは自衛隊の人の後に続いて樹海の奥に向かった。

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