アスティの線引き
「はーい……ダンジョン深層配信、はーじまーるよー……」
「始まります!」
『なんだなんだ?』
『しばらく配信しないだろうなと思ってたのにw』
『深層とは?』
「文字通り、ダンジョンの深い場所、だね」
さて。ここでアスティから教えてもらったダンジョンの情報の開示だ。
「このダンジョンだけど、全部で十階層らしいです」
『ほーん』
『またいきなりやな』
『わりと浅い?』
「うん。ボクも最初はそう思ったけど、ちょっと違うみたい」
ボクたちが最初に入るあの場所よりは狭いらしいけど、それでも一層一層がかなりの広さを持ってるらしい。その上、一つ階層を下りれば魔物の強さが劇的に上がるのだとか。
この世界の人たちも、未だ最高到達記録は五階層。六階層から先は誰も入ったことがないのだとか。
「で、ここがその誰も到達していない階層、六階層です」
『ふぁーwww』
『人類初到達おめでとうw』
『やったねリオンちゃん!』
「君ら分かってて言ってるでしょ」
当たり前だけど、ボクはここに自力で到達したわけじゃない。当然のように、どこかのクソ女神に拉致された結果だ。
のんびり動画サイトでも見ようと思っていたところに転移で連れてこられた場所が、ここ、というわけだね。ふざけんな。
『ところでそこが六層なん?』
『洞窟要素が皆無なんですが』
「うん……。そうらしいよ」
ダンジョン六層。六層は、草原エリア、らしい。驚くことにこの階層には昼夜の概念もあって、ダンジョンの外とリンクしているそうだ。
太陽っぽいものもあるけど、さすがにあれは動かずに、夜になると少しずつ暗くなって、朝になるとまた明るくなる。そういう光源なんだとか。
「それで? ボクはここで何をすればいいの?」
「散歩でもしましょう」
「帰る」
「だーめ」
「…………」
『すげえ、リオンちゃんの額に青筋浮かんでる……w』
『人間マジギレすると青筋浮かぶってほんとなんだな』
『落ち着けリオンどうどう』
大丈夫。ボクは落ち着いてる。落ち着いてるとも……。
「リオンさんが本気で怒りそうなので、それでは真面目なお話です」
「最初からやってよ……」
アスティとの会話はとてもストレスを感じる。ちょっと悔しいのが、それもなんだか楽しいと思えてきてしまってることだけど。なんだろう、気を遣う必要がないのは、とても楽だよね。
それはそれとしていらいらするけど。いらいらするけど!
「それでは改めて、リオンさん」
「うん」
「リオンさんはクレハとバーバラの二人を自分の世界で保護したい。間違いありませんか?」
「そうだね」
命を狙われ続けるっていうのは、とても疲れることだと思うから。例えそれがこの世界での仕事の結果だとしても、あんな小さな子が不安を募らせるなんてだめなことだと思う。
だから。色々と問題もありそうだけど、できれば地球で暮らしてほしい。手続きとかいろいろあるだろうから、まだまだ計画段階だけど。
でも。まだその計画段階に入る前の問題だったらしい。
「リオンさん」
「うん」
「私はリオンさんのためなら、なんでもしちゃいます。リオンさんには……恩が、ありますから」
「恩?」
初めて理由を聞いたけど、心当たりがない理由だ。ボクはアスティと会ったことなんて一度もない。神様らしいから神様の視線で何かあったのかもしれないけど、ボクはそんな特別なことはしたことがない、はずだ。
『つまり今までのことは恩返しってこと?』
『神様が恩を感じてるって……お前なにしたんだよ』
そんなことはボクが聞きたい方だよ。
ボクが首を傾げていると、アスティは小さく笑って首を振った。
「気にしないでください。リオンさんが思い出せるものではないですから」
「ふうん……」
『思い出せるものじゃない、ね』
『昔すぎてリオンが小さすぎて覚えてないとか?』
『それとも例えばぜん……』
ん? なんだろう。コメントの一つが急に途切れた気がする。ぜん……なんだろう?
アスティを見る。目が笑っていない。これは、追求しない方がいいやつだ。
「わかった。あまり深くは気にしない。それで?」
「はい。ともかく、私はリオンさんのためなら何でもします、ということです。でも」
そこで一拍おいてから、アスティが言った。
「クレハとバーバラのために何かをすることはあり得ません」
突き放すような言葉だった。とても、冷たい声音だった。
「それは……。ボクが、望んでも?」
「リオンさんが望んでも、です。少しぐらいならいいと思いましたが、ずっとあそこで暮らす、なんてことは認めません」
「…………」
有無を言わさぬ口調。だから、今回に関してはボクが何を言っても無駄だと察してしまった。
『普段からめちゃくちゃしてるのに!』
『はー。つっかえ』
『所詮クソ女神はクソ女神だったか』
『これだから女神は』
『失望しました。女神様のファンやめてリオンちゃんをprprします』
「なんでそこでボクが巻き込まれるの?」
さすがにぺろぺろはされたくないかな!
ともかく。クレハちゃんを保護し続けるのは、だめ、ということ。
でも。わざわざここに、クレハちゃんたちがいない場所に連れてきてその話をした、ということに何かしら意味があると思う。
だからじっとアスティを見つめて待っていると、アスティは人差し指を立てて微笑んだ。
「ではリオンさんに、この世界の人ならほとんどが知っていることを教えてあげます」
「うん?」
「探索者が、このダンジョンに挑戦し続ける理由です」
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