増殖するバカ姉


 選ばれたのは、ポテチでした。いや選んだのはボクだけど。


「なにこれ?」

「ポテチ。美味しいよ」


 コンソメ味です。オススメ。

 お盆にポテチとジュースを載せて持っていって、みんなで食べてる。お芋を薄く切って揚げたお菓子はあっちにもあるらしいけど、この世界ほどの完成度じゃないらしい。


「すごく薄い……それに、美味しい……!」

「このジュースも初めての味だけど……。少し酸味があって、美味しいわね……」


 日本のお菓子とジュースは異世界にも通用するみたいで安心だ。

 クレハちゃんも警戒心はかなり和らいだみたいで、今はお菓子に夢中になってる。幸せそうに食べてくれて、見ていて和む。

 二人が夢中になって食べているのを眺めていたら、ノックの音が聞こえてきた。姉も弟も学校に行ってるはずだから、母さんかな?


「配信中だから待ってー」

「あら。じゃあ晩ご飯は何人分?」

「二人分追加で!」


 さすが母さん。ボクの配信をやっぱり見てるらしい。クレハちゃんたちのご飯を考えてくれていたみたい。


『親フラはちょくちょくあるけど、中に入ってくることないよね』

『理解のあるお母さんやで』

『羨ましいご家庭』

『なお邪神という結果』

『やっぱ羨ましくねーわ』

『おまえらw』


 自慢の家族ではあるけど、どこかの邪神が足を引っ張ってきてると思う。


「二人とも、今日は泊まっていってね。ここなら安心して寝れるから」

「それは、有り難いけれど……。本当にいいのかしら」

「大丈夫……だよね? アスティ」

「リオンさんがそうしたいなら、大丈夫ですよ」


 うん。やっぱり大丈夫。正直ボクがやりたいと言ったら何でも通ってしまいそうで、少し不安になるけど……。今回はいい意味でとらえよう。

 晩ご飯の時間になったところで、配信は終了。クレハちゃんたちを連れてリビングに向かうと、姉が待ち構えていた。知ってた。


「いらっしゃいかわいいいいい!」

「え、え、え!?」


 いきなりクレハちゃんを抱きしめる姉と、かわいそうに混乱しきりなクレハちゃん。一瞬だけポーチに手が伸びていたから少し不安だったけど、ちゃんと思い止まってくれたみたい。

 バーバラさんも杖を手にしていたけど、すぐに苦笑いで下ろしてくれた。悪意はないと判断してくれたみたい。

 そこまでならよかったんだけど……。


「あなた、話せそうね……」

「おや。クレハちゃんのお姉さんだよね? この子、かわいいね!」

「そうでしょうそうでしょう!」

「バカ姉が増えた……だと……!?」


 くそ! バーバラさんもやっぱりそっちの人か! ボクの知り合いの女性、変な人多すぎない? なんでこうも妹大好きばかり集まってくるの?

 いや待てボクは妹じゃない弟だ落ち着けボク。


「えっと……クレハちゃん……」

「私も……あそこまでのお姉ちゃんを見るのは初めて……」

「そっかあ……」


 ということは、あれでも普段は押さえつけられてるってことかな。多分周りを警戒して、それどころじゃなかったんだと思う。それを思うと抑圧から解放された結果だからいいことだとは思うんだけど……。


「見てよ、この写真。うちの妹、かわいいでしょ?」

「これが写真……便利な道具ね……。ええ、本当にかわいい……。クレハちゃんにも着せたいぐらい」

「服、あるわよ」

「…………」

「…………」


 おいそこ無言で握手をするな。怖い。本当に怖い。気付いて、クレハちゃんがどん引きしてるよ。バーバラさんを見る目がかつてないほど冷え切ってるよ。


「クレハちゃん?」


 にっこり笑顔で振り返るバーバラさんと、そっとボクの後ろに隠れるクレハちゃん。バーバラさんはショックを受けてるみたいだけど、自業自得だ。反省してほしい。


「クレハちゃん、晩ご飯は期待していいからね」

「うん」

「待って、ねえ待って!?」


 待ちません。

 さて。晩ご飯だけど。さすがにさらに二人も増えるとテーブルがかなり狭くなってしまった。五人で使っていたテーブルを八人で使うわけだから、当然だ。

 さっきまでの暴走はなんだったのか、バーバラさんは母さんと父さんに丁寧に挨拶してる。この辺はさすが、ギルドで受付のアルバイトをしていただけはあると思う。

 いや、この人がギルドの受付? ギルド大丈夫?

 晩ご飯は、唐揚げ。大量の唐揚げが盛られたお皿がテーブルの中央にどんと置かれてる。唐揚げはあっちにはない料理みたいで、クレハちゃんがうずうずしているのが印象的だ。

 女の子でも育ち盛り。これだけお肉がいっぱいだと、たくさん食べたくなるよね。


「いただきます」


 みんなで手を合わせてそう言ったところで、クレハちゃんは少し遠慮がちにしながらも唐揚げを一つ取った。ぱくりと食べて、一瞬だけ固まって、そして目を輝かせて……。なんだろう。すごくかわいい。


「美味しい?」


 聞いてみると、クレハちゃんはこくこくと頷いた。


「あらあ。嬉しいわね。ほらほらたくさん食べてね」


 母さんが小皿に唐揚げをうつしてクレハちゃんに押しつけてる。クレハちゃんも戸惑ってたけど、お礼を言って受け取って、また食べて、笑顔になって。見ているだけで、なんだか幸せになる笑顔だ。

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