二人の事情

 そこまで話して、はっとして我に返った。振り返る。クレハちゃんとバーバラさんは目を丸くしていた。

 うん……。さすがにこれは、だめだったと思う。明らかにちょっとおかしい魔法だった。警戒されてもおかしくは……。


「リオンちゃん、すごい!」


 そう思っていたボクの両手を、クレハちゃんが握ってくれた。


「あんなにすごい魔法、初めて見た! 他の魔法使いさんの魔法でも、あんな威力はほとんど見ないよ! リオンちゃん、すごい……!」

「そ、そう? すごい?」

「うん!」

「え、えへへ……」


 ああ、浄化される。すごく良い子。とてもかわいく笑ってくれるし、最高すぎない?


『天使かな?』

『さっきまでゴブリン相手に無双してた子とは思えんな』

『あああ心がぴょんぴょんするんじゃあ』


 変なこと言ってる奴は全力で反省するべきだと思う。


「まさか……マイナファイア……? 失伝魔法じゃない……!」

「えう?」


 なにそれ。初めて聞いたんだけど。

 バーバラさんが言うには、失伝魔法は何らかの理由で今の世の中に伝わっていない魔法のことらしい。マイナファイアも、昔の資料にはそういう魔法があったことは分かっているけど、誰も使い方を知らないのだとか。

 アスティを見る。目を逸らされた。


『もう何度も見たやり取り』

『このやり取りを見ないと始まらないまである』

『実家のような安心感』

『お前の実家やばすぎる定期』


 こいつら本当に他人事だね……!


「何か秘密がある子だとは思ってたけど……。まさか、失伝魔法を使えるなんて……」

「えっと……。これって、そんなにすごい魔法なんですか?」

「それすら分からなかったけど……。リオンちゃんの魔法を見る限り、とても強い魔法みたいね……。危険すぎて伝えられなかったのかしら」

「お、おお……」


 それ、ボクが使えるってばれたらやばいやつでは? ボクは訝しんだ。なんて。


「あの……この件は内密に……」

「もちろん! リオンちゃんの手札だよ。ちゃんと黙ってる!」

「ありがとうクレハちゃん!」

「きゃあ!?」


 あ、思わず抱きついてしまった。謝りつつ慌てて離れる。クレハちゃんは顔を真っ赤にしていて照れていた。かわいい。


『かわいい』

『これは……てえてえか!?』

『なんでもそっちに繋げるんじゃない! まだだ、まだこれからだ……!』

『お前も期待してんじゃねえかw』


 変なことは考えるなよう。クレハちゃんに失礼だから。

 さて、とバーバラさんが、今度はアスティに視線を向けた。


「それじゃあ、アスティさん。最後にあなたの戦い方を……」

「拒否です」

「え」


 ばっさりと断ってしまったアスティに、バーバラさんが固まってしまう。無理もないと思う。ボクもアスティが断るとは思わなかったから。


「私は万能です。何でもできます。でもそれは、リオンさんのためです。リオンさんに何かあるならリオンさんだけ助けます」

「そんなこと……!」

「当てが外れましたか?」


 にっこりと。アスティが笑顔でバーバラさんに問うと、バーバラさんは苦虫を噛み潰したような顔になった。

 えっと……。どういうことだろう?


「お姉ちゃん、もしかして言ってなかったの……?」

「…………」


 クレハちゃんの問いに、バーバラさんが目を伏せた。

 もしかして、何か訳あり、かな?


「アスティ。どうせ知ってるんでしょ。教えて」

「あれ? 私からでいいんですか?」

「うん。何か違ったら、バーバラさんが訂正入れるでしょ」

「そうですか。では、そうですねー……」


 アスティが言うには。クレハちゃんはとても大きな忍者の集落に所属していたらしい。いろんな国から依頼が来るほどなんだとか。

 バーバラさんは、元は大国の宮廷魔導師。かなりすごい魔法使いだったらしい。宮廷魔導師がよく分からないけど、とりあえずすごい魔法使いってことだね。そういうことにしておこう。

 ある日、バーバラさんが別の簡単な仕事で国を訪れていたクレハちゃんに、可能ならと個人で依頼したのだとか。それは、とある国の暗部と忍者の集落の関係、その調査。


 クレハちゃんはそんな繋がりがあるわけがないと証明するために引き受けて、調べて……。そして、決定的な証拠を見つけてしまった。

 その調べたこと、知ったことを集落にも気付かれて、クレハちゃんが追われる身になってしまったのだとか。

 バーバラさんもさすがに罪悪感を覚えて国で保護を求めたけど、さすがに危険因子にもほどがあると受け入れられず、こうして義理の姉妹としてダンジョンに逃げ込んだのそうだ。


 このダンジョンは最も広大で、最も危険度が高い。だから、ここなら襲われないだろうと。

 それに、ダンジョンにあるあの街は、ギルドの監視が行き届いている。何かあればすぐにギルドが知るところになり、ただでは済まない。ギルドはかなり大きな発言権があるみたいだね。

 そうしてひっそりと隠れ住んでいたけど、問題はお金。資金が底を尽きかけたところで、ダンジョンで稼ぐことになったけど、ダンジョン内ではさすがにギルドの監視もない。

 バーバラさんが不安に思っていたところに現れたのが、ボクたち、というよりアスティだった、ということだね。

 バーバラさんが測れないほどに強いだろうアスティと、それに守られるボク。そのパーティメンバーになれば、アスティに守ってもらえる、という算段だったのかも。


『なるほど?』

『理解はしたけどかなりお粗末』

『それだけ追い詰められてたんだろ』

『命を狙われるってそれだけストレスやばいからな?』

『なんでお前はそんなこと知ってんだよw』


 視聴者さんにも命狙われてる人いるの? 大丈夫?

 ともかく。事情は分かった。バーバラさんからも訂正は入らなかったし、概ね間違いないんだと思う。

 うん……。さて。どうしようこれ。

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