まいなふぁいあ!

 ダンジョンの入り口に到着。といっても、ギルドの地下だった。ギルドの地下の一室に、さらに地下に続く階段がある。ここがダンジョンへの入口らしい。


「一層目はゴブリンとその亜種がメインになるわ。奥に行くほど亜種が多く出るようになるから、最初はあまり奥に行かないようにしましょう」

「了解です」


 ボクも自信があるわけじゃないから、とても助かる。クレハちゃんからすれば物足りないかもしれないけど。


「ごめんね、クレハちゃん。付き合わせちゃって」

「どうして? 気にしなくていいよ。私も最初は守ってもらったから」

「クレハちゃん……!」


 ああもう本当にすごく良い子! この子を紹介してもらえたのは本当に嬉しい! バーバラさんは表情が怖いからいらないけど!


「ところでアスティ。ボクはどうしたらいいの?」

「杖、調整しておきました。まいなふぁいあ、で単体用の魔法です」

「威力は?」

「さあ?」


 嫌な予感しかしないけど、クレハちゃんに失望されるのも嫌だから受け入れよう……。我ながらちょっとずるいと思う。

 薄暗い洞窟をしばらく歩くと、ついにゴブリンが出てきた。こんぼうを持ったゴブリン三匹。本当に小さい鬼みたいな外見だ。


『ゴブリンだあああ!』

『ぐへへな展開はありますか!?』

『おらわくわくしてきたぞ!』


「そんな展開があってたまるか……!」


 絶対に嫌だよ! ボクはアスティが助けてくれるだろうけど、クレハちゃんとかは無視されると思う。だから、もしもの時はどうにかしないと……!

 ボクがそう気合いをいれたところで。


「まずはわたしだけでやるね。わたしが何をできるか、知ってほしいから」

「え? あ、うん」


 そう返事をした瞬間、クレハちゃんの姿がぶれて、消えた。

 気付けばクレハちゃんはゴブリンに肉薄していて、その首にポーチから取り出したクナイを突き立てていて。それをボクが認識した直後には、次のゴブリンを、そしてまた次のゴブリンを。

 三匹のゴブリンは瞬殺されました。


「…………。うわようじょつよい」


『お前が言うなwww』

『ぅゎょぅ ι ょっょぃ』

『マジで強すぎて笑うしかねえw』


 Cランク、だっけ。これが、一人前の探索者。想像以上だった。


「これがわたしの戦い方。ゴブリンぐらいならすぐに倒せるけど、もっと奥のオーガとかになってくると、ちょっと厳しくなってくるの」

「すぐに倒せないってこと?」

「うん……。倒せなくはないけど、時間がかかるの。でも相手の注意を引きつけることはできるから……!」

「つまりその間に、ボクが魔法で攻撃すればいいってことだね!」

「そう!」


『ゲームで言うところの回避タンクってことかな』

『なんそれ』

『敵のヘイトを集めて回避で攻撃を受け続ける、みたいな感じ』


 ゲームでもあるやつだ。攻撃もできなくはないけど、基本的には後衛の人のための時間稼ぎ。ただ特徴として、防御力が低くて打たれ弱い、というのもある。

 クレハちゃんはスピードを活かすためか軽装だし、同じタイプだと思う。だから、クレハちゃんの負担を減らすためにボクががんばらないといけない。

 問題は魔法の威力だよね。ちょっと怖いかも。


「次はリオンちゃんの魔法を見てみたいけど、大丈夫?」

「任せて」

「うん」


 ようし、いいところ見せるぞ……!

 さらに少し歩くと、次のゴブリンが出てきた。やっぱりこんぼうを持ってる。

 スライムもそうだったけど、魔物ってどういう生態なんだろう。ダンジョンでの食物連鎖があるのか、それとも勝手に生まれてくるのか……。謎だ。

 そう考えている間に、クレハちゃんが一匹だけ残して倒してくれた。本当に一瞬だ。ボクの魔法なんて必要なくない? と思ってしまうけど、クレハちゃんが言うにはもっと奥だとそういかないらしいし、ダンジョンも難しい。


「リオンちゃん、どうぞ!」


 クレハちゃんが戻ってきたので、ボクは頷いて杖を構えた。えっと、確か……。


「マイナファイア!」


 ボクがそう叫ぶと、突如ゴブリンが炎に包まれた。炎というか、それはもう爆発とも思えるほどの激しさだ。そして一瞬で、ゴブリンは燃え尽きた。

 なにこれこわい。


『ヒェッ……』

『やっぱり普通じゃなかった!』


「あば、あばば、あばばばば……」


『リオンちゃんが壊れた!』

『この人でなし!』

『間違い無く女神様のせいですね』


「ひどくないですか!?」


 ひどくないかはボクが言いたいよ! いや、確かに最初よりはかなり抑えられてたよ? でもそれでも明らかにオーバーキルすぎるでしょ! 一瞬で燃えかすって何だよ怖いよ!


「私は悪くないです! だってリオンさん、ちゃんとやってくれなかったじゃないですか!」

「なにが!?」

「まいなふぁいあって、力を抜いて言わないから! マイナファイアって力強く言っちゃうから!」

「え、そこで判別されちゃうの!?」

「されます!」

「先に言え!」


 知らないよそんなの! マイナファイアが魔法の名前だと判断したからそう叫んだのに、声の強さで変わるとか分かるわけないじゃん!


『これはどう思われますか?』

『審議……するまでもなくね?』

『判決、有罪、アスティ。説明不足』


「そんなあ!?」


 視聴者さんたちはボクの味方だった! まあ味方だからって何だよと言われたらそれまでだけど!

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