帰宅
さて。帰宅の方法だけど。
「はい、ではリオンさん。こちらへどうぞ」
「うん……?」
アスティに手を引かれて案内されたのは、路地裏。建物と建物の隙間。とても薄暗い、ちょっと怖い場所だ。
とりあえず言いたい。
「ボクに何をする気!?」
「違いますよ!?」
『違わないように見えないんだが』
『これは……犯罪の香りがしますねえ!』
『おまわりさん、こいつです』
『おまわりさんです、手遅れなので射殺してもいいですか?』
「ひどくないですか!?」
ひどくないよ。妥当な扱いだよ。この状況で違いますと言われて信じるバカがどこにいるんだよ。
「や、やんのかこら! うけてたつぞこら!」
杖を構えてアスティを威嚇する。ふはは残念だったな! ボクにこの杖を渡したことを後悔するがいい!
「かわいい」
『かわいい』
『かわいい』
「なんで!?」
ボクに対する扱いもひどいと思う! かわいいって何さ! 全力で威嚇してるのに!
『杖を構えてぷるぷるしていて……いいですね』
『こう、なんだろう。フシャーっていう猫を幻視してる』
『奇遇だな、俺もだよ』
「リオンさんは猫だった……!?」
「泣くぞ! 全力で!」
もうやだこいつら!
「いえ、まあ冗談は置いておきまして。今回は本当に違います」
「具体的に」
「いえ、もう一度来た道を戻るのは面倒でしょう? 転移で帰りましょう、というだけです。さすがに表で転移して他の人に見られるのは困るので」
ああ、なるほど。つまりただ帰りましょうと、そういうことだね。しかも転移で一瞬で。
なるほど。
「あなたが神か!?」
「神ですよ!?」
『神ぃ!』
『我々でも使える道具にしてくだせえ! 毎回違う入り口からでダンジョン攻略とか、帰る時間を考えると無茶があります!』
「ああ……。なるほど。それは確かに……。正直リオンさん以外はどうでもいいですが、それぐらいは考えておきましょう」
『ありがとうございます!』
『言い方はちょっと引っかかるけど助かります!』
『リオン>超えられない壁>俺ら』
『言うなw』
一瞬で帰れるならとても便利だよね。安心して探索もできるというものだと思う。それに、コメントでもあったように、毎回違う場所に出るならボス部屋に行くだけでも一苦労になると思う。
「でもそう思ったら、せめてあの街に行くことだけでも簡単にしたらもっといいんじゃない?」
「え? そ、そう思います?」
「うん」
「じゃあ……。ボス部屋を倒した人限定で、考えます」
『よっしゃあ!』
『リオンよくやった!』
『まあ問題はボスを倒せるかですけどね!』
『まだ俺らはダンジョンにすら潜れないからなあ』
ボク以外でも異世界人と交流してみたい人はいるだろうし、受け入れてもらえてよかったよ。本音を言えばボスを倒してなくても行けたらいいんだけど、さすがにその場合は間違ってさらに下層に行ったら危険だろうから、ちょうどいい落としどころだと思う。
それじゃあ、そろそろ帰ろう。アスティの手を取ると、一瞬だけ光に包まれていつもの自室に戻っていた。相変わらず便利な能力だと思う。
「あれ、もう夕方だ……。そんなに長くダンジョンにいたんだ……」
『気付いてなかったのか』
『ずっと薄暗い洞窟の中にいたら時間の感覚も狂うわな』
『その辺りも俺らは気をつけないと』
ボクはアスティがいるから安心だけど、みんなはそうじゃないからね。気をつけてほしい。
とりあえず、だ。
「それじゃ、配信終わり。またね」
『ちょ!?』
『そんないきなり!?』
みんなのコメントを無視して配信を切る。ちょっと、それどころじゃなさそうだから。
そうしてから振り返る。ボクの部屋、その入り口へ。
「新たな妹よ……よくも裏切ったなあ……」
姉が、怨嗟の視線でボクを睨んでいた。こわい。
「な、なにが……?」
「服を買いに行くって言ったじゃん! 楽しみにしてたのに! 着せ替え人形にするのを楽しみにしてたのに!」
「着せ替え人形言うな!」
欲望丸出しじゃないか、誰が行くかバカヤロウ。
「女神様!」
「はい!?」
「明日、服屋さんに一緒に行こう! かわいい妹、見たくない?」
「是非行きましょう!」
「こ、このクソ姉……!」
アスティを仲間に引き入れやがった。もうその時点でボクは勝てないことが確定だ。今まで通りアスティに振り回されるに決まってる。ボク知ってる、詳しいんだ。クソが。
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