てんちゅう!

「おい、嬢ちゃん! 探索者に……」

「天誅」

「ぐぼぁ!」


 そしてアスティにぶん殴られて吹っ飛ばされた。三回転ぐらいして床に倒れ伏してる。あまりのことにギルド内が完全に静まり返ってしまった。

 沈黙が痛いって、こういうことをいうんだね……!


『決断が早すぎるw』

『確かに怖そうな人だったけどいきなり殴るやつがあるか!』

『いやでもリオンちゃんを守るためなら仕方ない……のか!?』


 コメントは、擁護したり批判したり。正直ボクもどう反応すればいいのか分からない。

 そんな静かな部屋の中、おじさんが起き上がった。


「て、テメエ! いきなり何しやが……」

「リオンさんを怖がらせました。大罪です。万死に値します。故に死ね。今すぐ死ね。詫びる必要もない、ただただ死ね!」

「ひい!?」


 おじさんが恐怖で震え上がってる。そうだよね、ボクもものすごく怖いからね! 視聴者さんすら完全に沈黙しちゃったぐらいだからね!


「アスティ! 落ち着いて!」

「大丈夫です、リオンさん。私に任せて、リオンさんはリラックスしてください」

「できるかバカ!」

「あ、痛い! やめて! 地味に痛い!」


 持ってる杖でアスティの頭をぽかぽか叩く。素手で叩きたくてもちょっと手が届かないから、杖に頼る。ぽかぽか。


『なにこれかわいい』

『杖を必死に振り回すリオンちゃんかわいい』

『杖に振り回されてるリオンちゃんかわいい』


「うるさいな!」


 これでも必死なんだよボクは!

 息を整えて、おじさんの方へ向かう。おじさんは明らかにボクに怯えていた。いや、こちらのクソ女神が本当に申し訳ない。


「すみません。あの子は叱っておきますので……。それで、何か用でしたか?」

「あ、ああ……。いや、嬢ちゃんみたいな小さい子は探索者にならなくても、施設で保護してもらえるし大きくなったら仕事を斡旋してもらえるって言いたくてな……」

「…………」


 うん。普通にいい人だ。


『善人じゃん!』

『めちゃくちゃいい人でワロタ』

『やっぱりあの女神は邪神では?』


 奇遇だね。ボクもそう思う。

 振り返る。会話が聞こえていたのだろう、アスティは視線を逸らして口笛を吹いていた。ただし音が出ていない。ふすふすしてる。

 うん。よし。


「謝って」

「え。いやでも、待ってくださいよリオンさん! だってその人に威圧感があったから……」

「謝れ」

「はいわかりました!」


『うーんこの』

『この女神リオンに対して弱すぎる』

『まあ今までの行動が邪悪すぎるんですが』


 アスティはちょっと不服そうにしていたけど、それでもちゃんとボクの隣に来た。おじさんに対して頭を下げる。とっても嫌そうな顔だったけど、さすがにそこまでは言うまい。


「すみません、早とちりしました」

「あー……。いや、いいよ。俺の方こそ、悪かった。怖かったよな」


 そう言って、おじさんは苦笑した。怒ってはなさそうで一安心だ。


「それにしても、姉ちゃん強いな。その姉ちゃんがいれば確かに安心……」

「そうでしょうそう思うでしょう!? もっとリオンさんに言ってあげてください!」

「うお!?」


『急に迫るなよw』

『いかついおじさんが本気でびびってるのは草なんだ』

『さっき殺されかけたところだからなw』


 情緒不安定とはこのことだと思う。誰だって怖い。ボクだって怖い。


「リオンさんには私がいれば十分なんですよ! お金も食べ物もゲームだってなんでも用意できるすごい女神ですよ私は! だいたいそのあたりもっと理解してほしくて……」


 アスティが何か興奮して話し続けてる。普通に怖いからやめたほうがいいよ。怖いから言わないけど。


「これでも安心ですか?」

「あー……。嬢ちゃん、がんばれよ……」


 強面のおじさんに同情される日が来るとは思わなかったよちくしょう……!

 ともかく。盛大に脱線してしまったけど、改めて探索者登録だ。未だに何か喋り続けてるアスティは放置して、もう一度カウンターに向かう。今度はお姉さんも止めてくるようなことはなかった。


「あんなに強いお姉さんがいるなら安心ね……。守ってもらうのよ?」

「あの人から守ってほしいです」

「それは……えっと……」


 お姉さんがアスティを見る。未だに意味不明な言葉を話し続けるアスティを。お姉さんは頷いて、笑顔で言った。


「探索者登録を続けましょう」

「あ、はい」


『完全に流されたw』

『受付の人にすら関わり合いにならない方がいいと判断される女神様』

『これが女神の扱いか?w』


 女神かっこわらいだからね。仕方ない。

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