はじめてのギルド

「ボク、自分の将来が不安になってきた……。いつか大きく騙されそう……」

「え? 急にどうしたんですか?」

「いや、すでにクソ女神に騙されてるのか……?」

「突然の罵倒!?」


『マジでどうしたw』

『微妙に曇るリオンちゃんかわいいぺろぺろしたい』

『なんか変な奴が出てきたぞw』


「リオンさんをぺろぺろするのは私です!」

「張り合うなよー……」


『心なしかリオンちゃんのツッコミも元気ない』

『元気出して』


 元気出す。がんばる。まかせて。

 よし、と気合いを入れて、いつの間にか目の前まで来ていたギルドを見上げる。街の中央にあるだけあって、とても立派な石造りの建物だ。

 周りの建物は大きくても三階建てなのに、このギルドだけ五階建てになってる。五階は柱と屋根だけの丸見えの構造で、見張りらしい人たちが周囲を警戒していた。

 何かあったらすぐに駆けつけてくれそうだ。だからこそ治安がいいのかも。


「ほらほら、リオンさん」

「う、うん……」


 どうしよう。すごく緊張してきた。

 ボクだって小説や漫画、アニメはとても好きだ。だから異世界のギルドのテンプレもよく知ってる。強い人が足を引っかけていちゃもんをつけてきたり、素材の買い取りで横取りしようとしてきたり。もしくは、能力測定ですごい能力だって騒がれたり。

 一番最後はともかく、最初の二つみたいなことは正直ちょっと怖い。ボクはいたって普通の日本人で、戦争らしい戦争を経験したことがない。今後もしたくない。そして喧嘩もしたことがない。

 怖い世界とは無縁だったってことだ。いじめられた経験はあるけど、だからこそ叫んでくる人は余計に怖く思えてしまうわけで。

 うん……。どうしよう。帰っていいかな?


「リオンさん」


 ボクが迷っていると、アスティが両手を握ってきた。とても優しい手つきで、アスティを見ると柔らかく微笑んでいた。


「大丈夫です。私がついています。安心してください」

「いやアスティが一番信用できないんだけど」

「なんでえ!?」


『草』

『感動シーンが来るのかと期待してた俺たちの気持ちを返せw』

『日頃の行いだよ女神様』


「おかしいです……! ここは感動して、私に抱きついてくる流れだったでしょう? 期待して待っていたのに……!」


「うわあ」

『うわあ』

『これはひどい』


「みんなしてどん引きしないでください!」


 いや、だって。少しはちょっと、嬉しかったりしたんだよ? それなのにこんな、欲望ダダ漏れの言葉を聞いたら、嬉しさも消し飛ぶってものだよね。気持ち悪い。

 本当に。ちょっと感謝しそうだったのに。


「あ、あれ? なんだかすごく、もったいないことをしていた気がします……!」

「はいはい。入るよー」

「あ、はい! でもリオンさんが元気になってくれたのでおっけーですね!」


 うん……。いや、ただの偶然だ。きっと。




 両開きのドアを開けて、ギルドの中に入る。ギルドはどうやら役場みたいなものも兼ねてるみたいで、たくさんの人が集まっていた。それこそ一般人らしい人たちも。

 案内板を見てみると、一階が探索者用の受付、二階が一般人用の受付みたい。ちなみに案内板も日本語でした。もう何も言うまい。

 一階は、奥にカウンターがって、そのカウンターの両側にたくさんの紙が貼り付けられた掲示板があった。なんだかすごく、それっぽい感じ。

 他は、テーブルや椅子がたくさん並んでる。依頼を待つ探索者さんが使ってるのか、筋肉たくさんの人やいかにも魔女らしい人が座っていた。

 なんだろう。最初は怖かったけど、今はちょっと感動してる。いかにもなギルドだ。かっこいい。


「す、すごいね……! アニメの世界に来たみたい!」


『だよな! だよな!』

『やばいなこれリアルの映像で見れるなんて』

『映画のワンシーンみたい!』


 映画のシーン! なんとなく分かる! 西部劇とかの酒場のシーンとかが近いんじゃないかな!

 わくわくした気持ちで奥へと進んでいくと、周りの人がじろりとボクを見つめてきたのが分かった。なんか、視線に圧力があるというか……。びくっとした。


「ヒェッ……」


『一瞬のガクブル、俺じゃなきゃ見逃しちゃうね』

『はっきりとびくっとしてたのに見逃すわけないだろw』

『リオンがんばれ! 俺たちがついてる!』


「君ら何の役にも立たないでしょ……!」


『ひでえw』

『でも否定はできねえw』


 いや、でも、急に襲われることなんてないはず。とりあえず奥に進もう。

 奥へのカウンターに向かうと、とても綺麗なお姉さんが笑顔で待っていた。金髪のロングヘアのお姉さんだ。にっこりと笑顔で、とっても魅力的。


「いらっしゃい。今日はどんなご用かな?」


 それだけに子供に対する言い方で、ちょっと悲しい気持ちになった。まあ今のボクは幼女にしか見えないからね。仕方ない。


「探索者になりたくて……」

「え」


 お姉さんが固まった。なんだか困ったような顔で周囲に視線を走らせてる。やっぱり年齢制限とかがあるってことかな。

 そう思っていたら、大きいおじさんがこっちに歩いてきた。筋骨隆々の、スキンヘッドの怖そうな人だ。そんな人が近づいてくる、ただそれだけでボクは恐怖で身を竦ませてしまった。

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