異世界の言語
ところでここの人たちは、本当に異世界人なのかな。魔物だったりしない? この街並みもダンジョンの一部で、あの人たちもみんなモンスターとかだったら、さすがに嫌なんだけど。
確かめるのが怖くてその場で逡巡していたら、誰かがこっちに歩いてきた。金属製の鎧と槍を装備した、いかにもな兵士さんだ。
兵士さんはボクの目の前まで来ると、にこやかに挨拶してきた。
「こんにちは。ダンジョン都市は初めてかい?」
「だ、ダンジョン都市?」
「おや……。もしかして大迷宮に迷い込んだだけかな? 探索者登録はしているかな?」
「たんさくしゃ……?」
「なんと……」
なにそれ聞いてない。聞いたこともない。当たり前だけど地球にはないものだから、きっと異世界の方では常識なんだと思う。
『やっぱり冒険者っていうか探索者とかあるのか』
『てことはギルドも!?』
『登録しようぜ! 最初の試験で魔法をぶっぱだ!』
『やめてください死んでしまいます(そのままの意味で)』
『シャレにならねえwww』
そうだよ、そういう登録とかあるなら是非ともやってみたいけど、もし対人戦とかで試験だったらボクは魔法を使えないじゃないか。あんな魔法を人に使えるわけがない。生き残れる気がしない。
兵士さんは少し悩んでいるみたいだったけど、次はアスティへと向き直った。
「あなたがこの子の……お母さん、ではありませんね……。お姉さんですか?」
「そんなところですね。この子の両親は一年前に魔物に襲われて……。それ以来、二人で定住地を求めて旅しているんです……」
「それは……お辛かったでしょう。大変だったね、お嬢ちゃん……」
「あ、えっと……。ええ……」
『謎のカバーストーリーができあがってるw』
『平然と騙しやがったのこの女神』
『やっぱり邪神では?』
邪神なのは間違いないと思う。わりと本当に。
「定住地にダンジョン都市を選んだのは良い判断だよ。怖い魔物はいるけど、強い探索者も常にいるからね。治安はとてもいいんだ」
「へえ……」
『探索者が自警団も兼ねてる感じかな?』
『荒くれ者が多いイメージが勝手にあったけどそうでもなさそう?』
『騎士団のイメージが出てきたw』
安全なら、交流とかも楽しめそうかも。どんな人がいるのか楽しみだ。
ボクが考えてる間に、アスティが兵士さんと話を進める。さすがにここは引き受けてくれるみたい。まあ見た目幼女だしね、今のボク。アスティが話を進めるのが自然か。
「それでですね……。私たちも探索者に登録したいんですけど、どこに行けばいいでしょう?」
「私、たち……? この子も登録させるおつもりですか?」
「はい。この子、とっても強いですから。さっきもヒュージスライムを、魔法一発で燃やし尽くしてしまったほどに」
「なんと」
おいばかやめろ。マジでやめろ。それはボクの力じゃなくてこの杖の力だ。変に持ち上げられても期待を裏切るしかないからやめてほしい。
「それでしたら、探索者ギルドは街の中央部にあります。この街で一番大きな、五階建ての建物です。そちらに行かれるとよろしいかと」
「ありがとうございます。行きましょう、リオンさん!」
「はーい……」
兵士さんからの視線がちょっと怖いけど、ボクはアスティに手を引かれて、街の奥へと歩いていった。
『お姉ちゃんに手を引かれるリオンちゃんとてもかわいい』
『ちょっと周囲を警戒してきょろきょろしてるのとてもかわいい』
『ちょこちょこ歩いてかわいいですね!』
こいつらまとめてファイアしたいなあ……!
街の中央にギルドとやらの大きな建物があって、その建物を中心に東西南北に大きな道があるらしい。いや、方角が合ってるのかは分からないけど。とにかく十字を切るようにメインストリートがあると思ってくれていいと思う。
その大きい道沿いに比較的大きな建物が並んでいて、その奥に小さい建物がたくさん集まってる。ここに定住する人は小さい家を作ったり借りたりして暮らしてる、らしい。アスティが言うにはだけど。
「ところでアスティ。歩きながらでいいから教えてほしい」
「はい! なんでもどうぞ!」
「あの兵士さん、日本語喋ってなかった?」
『あ』
『そういえば普通に俺らも聞き取れてたな』
『けもっこの興奮で気付かなかったぜ!』
『お前らwww』
そうなんだよね。口の動きからして、日本語に聞こえてるだけというわけでもなかったみたい。ちゃんと日本語を話していたと思う。
ボクの質問を受けたアスティは、にっこりと笑顔で頷いた。
「はい。この世界の言語は日本語ですよ」
「なんて?」
「ですから、この世界の言語は日本語ですってば」
「…………。なんで?」
「それはもちろん、リオンさんに快適に過ごしてもらえるようにです!」
「…………」
おーけー。落ち着けボク。いよいよこのクソ女神が狂ったかと思いそうだけど、真実ここの人は日本語を話してる。だから女神が言うことは事実。
いやだからこそ意味が分からないんだけどね! 何言ってんだこいつ!
「ボクと会って一日じゃん。え、なに? 無理矢理言語を変えさせたとか、そんな感じ?」
「順序が逆ですねー」
「んん……?」
アスティが言うには。この異世界はアスティが過去の自分に連絡して作った世界らしい。アスティも過去にこの世界を作った記憶があって、なるほどこの時のためかと得心したそうな。
そう! つまりは! この世界はボクのために作られた世界なのだ!
「アスティ、病院行く? ボクは詳しくないけど、調べれば頼もしい精神科医ぐらいは見つかると思うけど」
「リオンさん!?」
『辛辣ぅ!』
『でも言いたくなる気持ちは分かる』
『どこまでホントかわからんけど、スケールが違いすぎるな』
本当に。そもそも、どうしてここまでしてるのやら。ボクに一目惚れなんて言ってたけど、さすがにそれを鵜呑みにはできない。
でも。
「ふんふんふーん」
アスティはとても機嫌良さそうに、鼻歌を歌いながら先導してくれてる。決して悪意があるようには見えないんだよね。だからこうして流されてるわけだけど……。
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