ふぁいあ!

「さあ、リオンさん! ファイアでヒュージスライムをやっつけましょう!」

「確かにボクが使えるのはその魔法だけみたいだけど……。いくらなんでも一人だと時間がかかると思う」

「大丈夫ですって! 襲われてもローブがありますから!」

「そういう問題かな……」


 もしも人間を取り込んで溶かすようなスライムだったら。スライムの中でちくちく攻撃するしかなくなるかもしれない。それは、とても嫌だね。不安しかない。

 でも魔法を使ってみたいという気持ちもある。最悪、逃げればいいだけだし、一度使ってみよう。

 そうしてボクは大きいスライムに杖を向けて、魔法を放った。


「ファイア」


 その瞬間、業火が部屋を満たしてしまった。


「え」


 前を見ても上を見ても左右を見ても炎しかない。灼熱の業火が部屋を埋め尽くしてる。ボクは半透明の青色の球体、おそらく結界に囲まれて炎は届いてない、けど……。

 もはや地獄だ。


「えええええ!?」


『やっべえええ!』

『大災害じゃねえか!』

『これ、最弱の魔法なんだよね?』

『どこぞの大魔王様の名セリフが聞こえてきそう』


 そんなこと言ってる場合か! とんでもないことになってるんだけど!


「たーまやー!」

「楽しそうだなクソ女神ぃ!」


『女神様www』

『リオンはちょっと落ち着けw』

『俺らは落ち着きすぎだけどな!』

『言うて他人事だし』


 いいなあ、ボクも他人事と言える方になりたいもんだよ!

 たっぷり一分ほど燃え続け、そしてさっきまでの業火が嘘のように一瞬で炎は消え去った。後に残ったのは。ボクとアスティだけ。ヒュージスライムは跡形もなく消し飛んでしまった。

 なにこれこわい。


「これ、実質的にボクは魔法を使えないってことでは……?」


『せやな』

『もし誰かが巻き込まれたら、即死だろうなこれ』

『ダンジョン配信なのに魔法を使えない配信者がいるらしいw』


 下手に使うと誰を巻き込むか分かったものじゃないからね……。よほどのことがない限り封印した方がいいかもしれない。

 それはまあ、仕方ない。安全のためとはいえ、望んでしまったのはボクだから。

 でも。


「いやあ、とてもすごい魔法でしたね! 最上級魔法を使ったらどうなっちゃうんでしょう……! 楽しみです!」

「こいつは殴っても許されると思う」

「なんでえ!?」


『当たり前なんだよなあ』

『諸悪の根源な女神様はちょっと反省するべき』

『無邪気に破壊を楽しんでるからなこの邪神w』


 炎を見てはしゃぐ女神は邪悪そのものでした。

 まあ、でも。倒したのは倒したわけだし……。奥に進んでみよう。ここまで来たら、開き直らないと。楽しもうぜ、ボク!


「よっしいくぞー!」


『二層目だー!』

『マジでさくさく攻略だな!』

『異世界人楽しみ!』


 ボクもそれが楽しみだ! むしろそれしか楽しみがない!

 ボス部屋の奥に見える部屋に向かう。そこは小さな部屋になっていて、階段があった。この階段を下りれば二層目なんだと思う。


「それじゃあ、下りるけど……」


 振り返る。アスティがいる。にこにこと、満面の笑みだ。


「嫌な予感しかしない」


『それな』

『わかる』


「なんでですか!?」


 自分の胸に手を当ててよく考えてほしい。アスティの笑顔は信用できない。

 ボクは小さくため息をついて、階段を下りていった。




 階段の先に広がっていたのは、街でした。


「いや、なんで……?」


 正確に言うと階段の先も少し洞窟だったんだけど、短い通路を歩いて出口らしき光を出てみると、そんな街並みが広がっていた。

 地面は石畳で舗装されて、たくさんの家々が並んでる。洞窟の中のはずなのに暗くなく、むしろとても明るい。太陽でもあるのかと思うぐらいに。

 そして、人が多い。たくさんの人が歩いているのが見える。人間だけじゃなくて、いわゆる獣人みたいなのもいるね。


「ケモナーが歓喜しそう」


『けものっこだあああ!』

『ロリなけもっこはおられますか!?』

『ちょっとダンジョン行ってくる!』

『おいお前らこいつら絶対ダンジョン入れるな!』


 ここまで来たら日本人が原因で変な犯罪が多発しそうだね。マジでやめてほしい。来ないでほしい。どうにかしないといけないんじゃないかな。

 いや、でも。


「どっちみちヒュージスライムに負けるでしょ」


『それは確かに』

『よしお前ら逝ってこい!』

『いやだあああ!』

『ちくしょうけもっこが手の届く場所にいるのに……!』


 こうして異世界の秩序は守られた、なんて。

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