第18話

 ドクターとの面会は有意義なものであった——得られた情報は少なかったが、しかし確信の持てる情報を得られたことだけは、良い収穫であったと言えよう。


「……これから如何するのですか?」


 イブの問いに、わたしは直ぐに答えを出せなかった。

 目的地は既に決まっている——イーストアジア・メガフロートだ。

 しかしながら、そうなった場合イブをどうやってそこに運ぶべきか? という問題が発声する。当然と言えば当然だが、ロボットを飛行機に乗せることは出来ず、荷物扱いとなってしまう。そして荷物を預けた際に、如何してもバレてしまうのだ。


「何か良いアイディアはないものか……」

「であれば、一つ良い方法があります」


 イブはそう言うと、自らの胸をトントンと叩く。


「ロボットは預け荷物として取り扱えますが、その場合通常であれば登録証の提出が必要となります。しかしながら、それは……あくまで動いているロボットに限ります。実際に動作していて、システム上それを感知してしまった場合に限る訳です。そして、それを掻い潜ることの出来るロボットは、本来であれば存在することはありません。……しかしながら、」

「しかしながら?」

「偽装してしまえば良いのですよ、動いているロボットが居ない風に見せかけてあげれば良い」

「……どういうことだ?」


 イブが何を言っているのか、さっぱり理解出来ずに居た。


「ロボットを感知してしまうのは、そのロボットが動作しているかどうか——その一点で決められてしまいます。ならば、偽造信号を出力してしまえば良い。ただ、それだけの話です」

「いや……、」


 そう簡単には言うが、本当に出来るのか?

 万が一出来なかった場合、わたしはそのまま問答無用で刑務所行きだぞ?


「安心してください。特に問題なく、行くことが出来るでしょうから。まあ、そんな感じで」


 ロボットにしてはふわっとした言い方だけれど——まあ、ここでああだこうだ言う必要もなかろう。

 兎に角、次に何をするかさえ決まっていれば、それで良いのだから。



◇◇◇



 翌日。

 わたしは適当な理由をつけて羽田空港にやって来ていた。

 休暇を使い過ぎるとそれはそれで問題だからだ。それに、ネオワールドの捜査とでも言っておけば大抵許可は下りる。

 羽田空港は近年国際線の便増加により、なかなか大変なことになってしまっている。どうせなら国際線は成田空港に統一すべきだと思うのだろうけれど、そうも言っていられない事情があるのだろう。

 それはそれとして。

 わたしは、第二ターミナルにあるラウンジで一息吐いていた。

 いつも時間ギリギリにやってくる人間も居るけれど、そんなことをして何になるのだろうか? 早めに着いておくことに越したことはないし、こうしてラウンジでゆったり出来るのだから良いことづくしだと思う。

 イーストアジア・メガフロート――正式にはEAM国際空港は、国際線で向かうこととなる。しかしながら特定の国からの入出国については通常の検査から幾分緩和され、簡易的な検査だけで済むようになっている。とはいえ、基本的な金属探知機を用いた検査や、X線を用いた検査は執り行われるのだけれど。

 イブは如何しているかというと――まあ、半分予想通りではあるのだが、預け荷物として荷物室に居る。とはいえ電源は切られていて――正確にはスリープモードか――その意識は最早奥深くで眠っていることだろうから、特に罪悪感なんてものは感じやしないのだけれど。

 わたしは、脳内でこれからのことについて再度考える。

 イーストアジア・メガフロートに到着してからは、知り合いのつてを当たる。毎回知り合いばかりに当たるのも面白い話ではあるが、これもまた警察に入ってから培ったものである。使えるものはどんなものであっても使ってしまえば良い——そうわたしは勝手に考える。


「……まあ、これからのことはどう転ぶか、分かったものではないのだけれど」


 だとしても、だ。

 最悪の可能性ばかりを考えても、意味はない。

 出来るだけでも最善の可能性ばかりを、考えておいた方が気持ち的に楽になる。


「時間か」


 わたしは、独りごちり立ち上がる。

 モニターには一時間後に出発する、EAM国際空港行きの飛行機の情報が表示されていた——。

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