第13話
「……そう、だったのですか」
イブはわたしの話を聞き終えると、ゆっくりと頷いてそう言った。別に変なことを言ったつもりでもないし、一回で理解してもらおうなどと思ったつもりもない。
慰めてもらおうだとか、そんな気持ちは一ミリとも存在しないからだ。
「まあ、理解してもらえるのならば、それで良いか……」
思ったとて、それを理解してくれたのが人間ではなく——それがロボットだったと言うことははっきりと明言しておく必要があるだろう。
別に悪いとは思わない。
「……今後のことを話しておこうか」
言っておかねばならないことがある。
自己思考型ロボットたるこのイブを、今後どうするべきなのか——ということについて、だ。
無論、公僕であるならば速やかに何かしらの機関に突き出すべきだろうと思う。
しかしながら、わたしはその選択肢を考えることはなかった。
何故だろうか? 考えたところで、何も答えは見出せないのだけれど。
「……何を決めかねているのですか?」
イブが問いかける。
「何を、って……」
「わたくしを助けた時点で、運命は決まっているのではありませんか?」
「……成程」
つまり、あんた——最初から分かっていたんだな?
「ロボットにしちゃあずる賢いというか何というか……。つまり、あの場で助けた時点でこうなることは分かっていた、と? 可能性は一切考慮しないのかよ? 助けた人間がロボットの部品を高値で売り捌く闇の商人だった可能性だって有り得るんだぞ」
「でも、実際は違うではありませんか」
「そりゃあ……」
それは、結果論だ。
結果的に問題なかった、というのは分かる。
しかしながら、そこは爪が甘いような気もしないでもない。本当にロボットか、こいつ。まるで人間みたいな行動ばかりとっているような気がするが。実は人間が指令を送っているとかないだろうな? わたしが狼狽えている様を、遠隔で見て笑っていたりしやしないだろうな。
「……まあ、良い」
乗りかかった船、という諺もあるぐらいだ。
少しばかり乗ってみても良いのかもしれない。失敗するのなら、その時はその時だ。
そう思って、わたしは次の日の予定を立てることとするのだった。
◇◇◇
翌日は非番だ。
元々休む予定にしていた。別に何処へ行くつもりもなかったのだけれど、イブと出会ったことで家で惰眠を貪るだけでは勿体無いと思い、イブを乗せてドライブと洒落込んでいるわけだ。
とはいうものの。
「……何故わたくしが後部座席に寝転がらなくてはならないのですか」
「あんた、どういう立場に立っているのかもう忘れたのか? お尋ね者だよ、お尋ね者。世界唯一の自分で物事を考えて行動することができる、自己思考型ロボット。それが何者かに襲撃されて行方不明だった——のに警官が匿っていたなんて言われちまったら、わたしが襲撃者と同一だと見做されかねない」
「そういうものですか? 別にわたくしが即座に否定すれば良いのではありませんか。張本人がやっていませんと言えばすぐに無罪放免されるでしょう?」
「……色々何でも知っているくせにそういうことは頓珍漢なんだな。知らないのか? ロボットには、基本的人権に近しいものは存在しない。何故なら、今までのロボットは人間と同じように自ら考えて行動できないからだ。人間がインプットした命令に忠実に従う——それが今までのロボットのスタンダードだったんだから」
「成程。つまり今までのロボットは人間に逆らうことができなかった、と?」
「まあ、そこまで強く言うつもりはないけれど、間違ってはいないかな。人工知能だっていまだに人間がデータを与えないと学習しない。当たり前だ、人工知能には手足が備わっていないのだから。かつては勝手に人の作品を大量に人工知能に勉強させて、それが出力したデータの著作権はどうなるか? みたいなことがあったよね。幾らクリーンな人工知能だとアピールしたくても、肝心な技術は当然ブラックボックスとなることが殆どだから、誰も証明できなかった。確かに豊かにはなるが、それにより人間の仕事は変容せざるを得なかった——というわけだね」
「……人間は変わることができるから、生き続けられたのでしょうか?」
急に哲学が入ってくるな。
うん、でもまあ、そうなのかもしれない。
わたしはあんまりそういうことは詳しくないし、うんうんと考えるつもりもないのだけれど、しかしながら人間がこの長い間生き残って、この世界の覇者と言っても差し支えない種族にまで成長を遂げたのは、そう言う理由があるのかもね。いやはや、まさかロボットからそんなことを言われるとは思いもしなかったけれど。
「……話を戻すけれど、ロボットの発言には証拠能力が存在しないんだ。たとえあんたが自分で物事を考えられるとしても、一般的にロボットというのは、人間がデータなりプログラムなりをインプットしてあげることで行動できる。それが主流だ。つまり、人間によっては発言を書き換えることができてしまう、ってわけだよ」
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