第3話天罰
捜査に当たる黒井川警部は、川崎巡査長に、
「懐中電灯は見つかった?」
と、尋ねた。
「懐中電灯?いいえ、まだ発見してませんが、何か?」
と、まだ午前中だと言うのに、30℃を超える気温で川崎は汗をハンドタオルで首筋を拭きながらそう答えた。
「ここは、街灯もない海岸線だよ。真っ暗でどうやって歩くの?」
「真っ暗だったから、足を滑らせて岩場に転落したんじゃ無いんですかね」
黒井川は兎に角、懐中電灯を探すように命じた。
遺体は、立神昇56歳。東京の村越デパートの経理部長で、休暇を取り現場から2km離れた民宿に宿泊していたことまで調べはついた。
事故、殺人の双方で警察は捜査に当たった。
司法解剖は、戸川検死官も加わった。
「これは……」
戸川はあることに気付いた。
検死が終わると、黒井川に報告した。
「やっぱりそうか」
「どうされました、黒井川さん」
川崎が尋ねると、
「頭部に2箇所、傷がある。片方は後頭部。もう一方は側頭部。ま、側頭部の陥没骨折が死因だね」
「と、言う事は?」
「殺しだね。川崎君、ちょっと、殺された立神の身辺をあらってみてよ」
「はっ!」
その夜、黒井川とワトソン君は「まさき」
で飲んでいた。新聞にはまだ、今朝の事件は載っていなかったが、夕方ニュースで流れていた。
「あっ、お母さん。ちょっと。昨日のお客さん」
と、言って真美は厚子にニュースを見せた。
昨日の客も居酒屋のテレビに釘付け。
「亡くなったのは立神昇さん、56歳。事件と事故の両面で警察は捜査中です」
「立神……」
「先生、どうかされましたか?」
と、精神科医の小林が漏らすと一緒に来た岡田が尋ねた。
「……いえ、この名字どっかて聴いたような気がするの」
小林は、生ビールを飲んで枝豆を頬張る。ニュースには、余り関心が無いようだ。
「死んで当然だ。あんな男」
と、昨日、立神に激昂した松本がボソリとつぶやく。
店内の様子を板場から利樹は眺めていた。
「黒井川警部。事件の進展は?」
と、小林が黒井川に尋ねると、
「すいません。何にもお答え出来ません」
連れの貴子が、唐揚げを口にしてレモンサワーを飲んでいる。事件には興味が無いらしい。
黒井川は何が背筋がゾクゾクとした感じがした。
犯人がこの中にいるような気がするのだ。
翌日、黒井川は部下に命じて「まさき」の家族と、昨夜の客も全員の一昨日前の夜の聞き取り調査をした。
「黒井川さん、立神の調べが付きましたよ」
と、川崎はメモ書きを読みながら、黒井川に報告した。
「立神昇は、村越デパートの経理部長でしたが、長年の使い込みで来月解雇らしいです。10年前も使い込みがあったようですが、それは立神の同僚が使い込みしたみたいですね。その同僚は、寺前邦郎さん。当時、47歳。え〜と、居酒屋「まさき」の、奥さんの実の兄です」
黒井川はウンウン頷いてからタバコに火をつけた。
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