第八話 

 都内にある探偵事務所に集められたのは久遠と速水を含め、全員で七人だった。

 杉山大翔、高橋麻衣、山崎和真、大平源蔵、百合真央。

 呼び出された者たちが、机を囲っていた。

 

「向ケ丘高等学校で起こった事件の犯人が分かりました」


 坂本が発したその言葉は、周囲の人間の背筋を張らせるには十分だった。

 

「しかし、今から話すのはあくまでも可能性の話です。だから今、その人物にはここで質問をしたい。して、その犯人は___」


 周囲を見渡し、やがて坂本の視線はある一点で止まった。


「___高橋さん、あなたの可能性が高い」



* * *



「この事件の犯人は、麻衣だと思うんです」


 坂本と宮本が見守る中、百合はきっぱりとそう言い放った。


「それって、高橋さん? 何であの人が……」

「私……いや、私たちはいじめていたんです。麻衣のことを」

「えっ……」

「私が好きだった人と麻衣が付き合って……それが無性に腹立たしくて。いつの間にか、グループ三人で麻衣のことを虐めていました。だから、殺害する動機は十分にあると思っていて……」

「麻衣さんの顔に傷がありましたが、あれは?」

「……私たちがやりました」


 百合は唇を噛んで項垂うなだれた。


「もちろん、これはあくまでも私の予想というだけです。もしかしたら、違うのかもしれない」


 しかし、と宮本は考えてしまう。

 百合と同じように、何かしらの理由を手紙に書いて殺害場所まで誘導し……井上も高坂もそうして殺されたのだとするならば……。


「色々と辻褄つじつまがあう……」


 宮本は無意識のうちに呟いていた。

 ふと気がつくと、坂本は固定電話に耳をあて、どこかに電話をかけていた。

 やがて繋がったのか、坂本は話を始めた。

 宮本は電話機の反対側に耳を押し当て、会話の内容を盗み聞きする。


「こんばんは、杉山くん、坂本です。夜分遅くにすいません。少し聞きたいことがあって電話しました。電話番号は学校に聞きました」

「あ、はい。それは大丈夫なんですけど、聞きたいこと……ですか?」


「はい」と坂本は頷いた。


「杉山くんは、よく高橋さんと一緒に登下校をしているそうですね」

「そうですね。行きも帰りも電車が同じなので」

「それで、六月十九日はどうしましたか。一緒に帰りましたか」

「六月十九日……? いえ、その日は一緒に帰っていませんね。いつもなら僕の部活が終わるまで図書室で待っていてくれるんですけど、その日は友達とカフェで勉強するとかで」

「ちなみに、誰との予定かはご存知ですか?」

「いいえ、知りません。そこまでは把握していなくて……。それがどうかしたんですか?」

「いえ、何でもありません。少し気になったことがあっただけなので。それでは、失礼します」


 それだけ言って坂本は電話を切った。

 宮本は、ただ呆然と立ち尽くしていた。

 坂本は宮本の肩に触れ、そこに強く力を込めた。


「今から言う人を全員、集めてくれ」


 坂本の目は、既に速水を見ていなかった。

 代わりに、ここにはいない誰か一人だけを見つめているように見えた。



* * *



「私、じゃない……」


 高橋は顔を強張こわばらせたままうなった。


「それでは、あの日は誰とどこのカフェに行っていたんですか?」

「……ッ。それは……それは……!」

「言えないんですね」


 坂本は淡々と言葉を投げかけた。


「私、じゃない……」高橋は先ほどと全く同じように呟いた。


「私だけじゃない……」


 そうして高橋は、ある一点を睨みつけた。

 そこにいたのは___教師である山崎だった。

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