第七話

 普段は誰も訪れない探偵事務所に、今日は一人の訪問者があった。

 ドアアイから見えるのは、向ケ丘高等学校の制服を着用した少女だった。

 宮本がドアを開けると、少女は緊張気味に言った。


「あの、話したいことがあって来たんですけど……」


 宮本は迷わずリビングに招き入れると、椅子に座るよう言った。

 坂本は既に椅子に着席しており、コーヒーをすすっている。


「まず、名前を聞いてもいいかな。私は坂本、そしてこちらは助手の宮本だ」

「あ、すいません。私は百合ゆり真央まおっていいます。すぐそこの……向ケ丘高校ってとこに通ってます」


 百合は言いながらも、視線を下げたまま、ユラユラと彷徨さまよわせていた。

 そんな様子の百合に、宮本ははっきりと問うた。


「依頼ですか? それとも……あなたの高校での事件のこと、ですか?」

「……ッ」


 その言葉を聞いた途端、百合は分かりやすくビクッと身体を震わせた。

 しかし、百合はやがてコクリ、と頷いた。


「はい。言おうかどうか迷ったんですけど……もし関係があるのかもと考えたら、全然眠れなくて」


 そう言って百合が差し出したのは、一通の茶封筒だった。


「これは……?」

「手紙です。事件が起こった六月十九日に、私の下駄箱に入ってました。内容は……これです」


 百合は封筒から一枚の紙を取り出すと、それを坂本と宮本の方へと向けた。

 手紙の内容はこうだった。


『 百合真央さんへ。

  今日の十八時二十分、B棟四階の女子トイレに来てください。

  杉山くんのことで、お話があります。

  誰にも言わず、一人で来てください。            』


「あなたは、行かなかったんですか?」

「いえ、行きました。でも、途中で亡くなった外林さんと、警備員さんに会って……。そこで警察に通報するよう頼まれたので、結局女子トイレには行っていません。あの、それが何か……」


 殺害現場と、百合が来るよう指示されていた場所が一致する。

 これは偶然ではないだろう。

 つまり、狙われていたのは井上日和、高坂薫、百合真央ということになる。

 仲良し四人グループのうちの、三人。

 だとしたら……。


 ガタッと音がした。

 見れば、坂本が焦燥感をあらわにして席を立っていた。


「高橋さんが、危ない……」


 同じ考えに至ったのだろう、坂本もそう呟いていた。


「待ってください、まだ続きがあるんです。ここからが本題なんです」

「……?」


 坂本と宮本は顔を見合わせた。

 坂本が再び椅子に座り直すのを見て、百合は続きを話し始めた。



* * *



 話を聞き終えた坂本は、向ケ丘高等学校に電話をかけた。

 そして大平から杉山の電話番号を聞き出し、話した。


 ……電話が終わった坂本は、宮本に言った。


「今から言う人を全員、集めてくれ」


 坂本の目は、既に宮本を見ていなかった。

 代わりに、ここにはいない誰か一人だけを見つめているように見えた。

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