第六話
坂本と宮本が
斎藤は廊下で死亡していた外林と仲が良く、いつも一緒にいたのだと担任を務める山崎から教えられた。
向坂から住所を聞き、聞き込みのためにこうして
しかし……。
「……留守、ですかね」
「……留守、だろうな」
チャイムには応答もなく、誰も出てくる気配がなかった。
「仕方ない、今日のところは出直すか」
「そうですね、いないんじゃ仕方ありません」
「あの……」
背後から誰かにおずおずと声をかけられ、坂本と宮本の二人はビクついて振り返った。
「うちに、何か御用ですか……?」
* * *
「すいません、土曜日の午前中はバイトがあって……」
そう言う斎藤にリビングへと案内され、坂本と宮本は椅子に腰掛けていた。
運ばれたレモンティーを啜り、二人してほぅっと息を吐く。
「それで、用事というのは?」
「ああ」と坂本は返事をして、カップを机の上に置いた。
「あなたの高校で起きた事件のことはご存知ですね。担任の山崎先生から、外林さんとあなたは仲が良かったと聞きまして」
「はい。桜とは、幼稚園からの付き合いだったので」
「そこで、何か彼女について知っていることはありませんか? 何でもいいんです」
その言葉を聞いたとき、斎藤の表情には確かに陰りが見られた。
宮本はこの表情を何度か目にしたことがある。
主に、後悔をしている人間に見られるものだった。
「実はあの日……事件が起こった六月十九日、私と桜は一緒に帰宅していたんです」
「えっ?」
その言葉に反応したのは宮本だった。
「でも、外林さんは確かにあの日、殺されて……」
「そうなんです。あの日、一緒に帰っている途中、桜が忘れ物をしたと言って、一人で取りに戻ったんです。私はバイトがあったので、先に帰宅したんですが……」
斎藤は拳を握りしめ、そこにいくつかの涙を落とした。
「今思えば、あの時一緒に取りに行ってあげればよかったと思います。……もう、遅い話ですけれど」
* * *
斎藤の自宅を出た後、宮本は外林の死体の写真を眺めながら歩いていた。
これは昨日、大平から貰ったものだった。
事件の取り調べのために必要になるだろう、とわざわざ探偵事務所まで届けに来てくれたのだ。
その写真では、頭から流れた血液が一直線上に進んでいた。
初めて見た時は、どうしてこんな血液のつき方がするのだろう、と思っていたのだが。
「何かから、逃げていたんでしょうね。何から逃げていたのかは、もう分かります」
宮本は悲しげな表情で呟いた。
井上と高坂は、B棟四階の女子トイレで殺害された。
そして忘れ物を取りに行った外林は、ふと立ち寄ったトイレでその殺害現場を目撃してしまった。
逃げ出した外林は、口封じのため、犯人に殺されたのだ。
そんなのって……と宮本は外林に酷く同情した。
「そりゃあ、共通点も見つからないわけだ。理由があって殺されたわけじゃないんだからな」
「……はい」
「犯人、見つけないとだな」
「……はい」
この瞬間だけは、宮本は明確な意思を持って頷いた。
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