第8話 Rex series ~ escape king catch ~
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椎名のお手洗いが終わり場所を移動した四人はrexシリーズができる場所にやって来た。今回四人が選んだのはrexシリーズの中でも比較的にルールがシンプルで遊びやすい escape。
肌を焦がす感覚は気のせいではない。
専用ステージに転送される前二人が感じた圧は本物。
弱肉強食の世界でライオンは相手が誰であろうと本気で狩りに挑む。
同じく。
公認プロ『アイドル彗星』も己が敵と認めた相手には本気で行く。
格の違いを見せつけるように途中から一言も話さなくなった愛奈と椎名の集中力は凄く覇気のような物を感じさせる。
「理紗……」
「なに?」
「椎名って本当にOSDG苦手なのかな?」
理屈じゃない。
先に転送ポートに入っていく二人の背中を見て野崎の直感が感じ取った違和感は。
「戦う前からこの覇気。確かサブ垢って言ってたし演技してたんじゃないかって思う俺が心の中にいる」
生物が持つ生存本能が危険信号を上げた時のように理屈じゃなくて身体が理解してしまう物に似ていた。
アイドル彗星。
駆け引きの天才でありながら運動神経抜群の姉と全てを計算で導き出す天才の妹。
妹――椎名が戦場で率先して動くことはない。
世間の謳い文句に今疑問を覚えた野崎は。
「椎名は動く必要がないから動かないプレイヤーなのかもしれない」
「……わかった」
田村はたった一言そう返事をして、野崎の手を取り足を進める。
全身を駆け巡る血が熱を帯びグツグツと沸騰していく。
経験が力になり連勝を続けていくうちに忘れていた高揚感が訪れる。
長い時の中で気づけば強くなり、対等な相手が消えて行った現実。
そうして築き上げた自称
そこに迫る本物の
だけど『SOCIUS』の二人は互いが互いを支え合うことで強者に立ち向かう強さを知らず知らず持っていた。
どんな時も二人で共有した。
あの感動を。
あの瞬間を。
忘れられない高揚感が……今甦る!
「ねぇ刹那?」
「なんだ?」
「なにがあっても私を信じてくれる?」
「あぁ」
「行こう! 私の頭脳全てを使ってフォローする」
転送ポートに入ると『アイドル彗星』が待つ専用ダンジョンステージ――The dungeon rex escape battlefield へ転送された。
同時。
仲間との連携が取れるように支給される無線機。
迷路のようなダンジョンを今から探索するわけだがただの探索ゲームではない。
ダンジョン内を逃げ回る独占欲に塗れ革命により逃げまわる王様をプレイヤーが追い詰めダメージを与えるゲーム。
王道としては。
まずダンジョン内に隠された武器を探す。
その後逃げ回る王様を見つけダメージ与える。
以降はその繰り返しである。
武器は重火器なら遠距離攻撃が可能でダメージが与えやすい。
ただし玉数には注意。
剣などの近距離戦を得意とする武器なら攻撃レンジが狭い分当たればダメージ量が多い。
ただし刃こぼれには注意。
と、それぞれメリットデメリットが存在する。
最終的に与えたダメージ量が多いプレイヤーもしくはチームの勝利となる。
制限時間は二十分。
洞窟型のダンジョンは入口が二十四か所。
各チームの初期配置はランダムとなっている。
「難易度はExtraでいいかしら?」
無線機から聞こえる声に。
「はい」
と答える。
難易度は全部で五段階。
Easy・Normal・Hard・Veryhard・Extra。
一般プレイヤーだとお勧めはNormalかHardとなる。
難易度が上がるに連れてダンジョン内の罠が増え、王が俊敏になり攻撃が当たらなくなる。またプレイヤーの足跡や足音から居場所を感知して見つからないように隠密行動をとるようになったりとダメージ以前に下手なプレイヤーだと見つけることすらできないなんてこともあるのがExtraである。世間ではExtraはプロ専用仕様だとよく言われている。理由は簡単で熟練者でもExtraだとダメージを与えられず終わってしまうことがあるからだ。そんなわけで『SOCIUS』もVeryhardまでの経験しかないが、難易度を下手に落としても相手の実力は変わらず勝ち目が大きく増えるわけではないのでそのまま行くことにした野崎と近くで頷くことで同意した田村。
「今から一分後スタートに設定したからよろしくね『SOCIUS』のお二人さん。なら共通回線切るわ」
そう言って切られた共通回線と目の前に出現する大きなカウントダウンの数字。
これが零になったタイミングでゲームスタートとなる。
相手はこのシリーズで世界ランキング一位のスコアを持つ『アイドル彗星』。
普通に考えたら勝ち目はないと思う。
唯一の勝ち目は後ろで静かに目を閉じ集中し始めた田村であると野崎は確信する。
「遂に俺たち努力だけでここまで来たんだな」
ボソッとダンジョンの入り口を見て呟く野崎。
勝つための努力は惜しみなくしてきた。
上手い人のプレイ動画を何千回何万回と見て再現。
そこから時間を掛けて自分たちのオリジナルの型に進化させてきた。
見栄を張り虚勢を張りプロに近づこうと背伸びもしてきた。
なにより負ける度に反省会を二人で開きどうやったら勝てるかを星の数ぐらいに話し合って来た。その努力の成果が今試されるのだと思う野崎の顔に笑みが浮かぶ。
「
敬意を込めて挑戦者として一人改めて挨拶をする。
誰もが憧れる舞台に
カウントダウンの数字が零になったタイミングで野崎がダンジョンの中へ。
田村は静かに目を開きダンジョンフロアマップを開いて点滅する野崎の信号を常に把握しサポートと言う主役に徹することにした。
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